判例(介護保険認定手続のために作成された主治医の意見書には、遺言能力を否定されるような事情が記載されていたが、その他の事情を考慮して、同主治医の意見書を介護保険認定手続のために形式的に作成されたものではないと評価し、遺言能力を認めた。)

2026/08/30 更新

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大阪高判令和6年4月16日判例タイムズ1546頁

1 事案
 公正証書の遺言には、遺言には、相続財産を全て長男に相続させると記載されていた。相続人は、長男と次男の二人であった。次男が、公正証書の遺言の遺言能力を争い、遺言無効の確認の訴えを提起した。

2 遺言能力について
(1) 遺言が有効になるのは、遺言能力が必要です(民法963条)。
(2)遺言能力は、「遺言当時、遺言内容を理解し、遺言の結果を弁識し得るに足りる能力」等と言われている。
(3)裁判実務では、①遺言者の年齢、②認知症等の病状、体の健康状態、③認知症の発病時と遺言時の時期的関係、④遺言作成の言動、⑤遺言作成時の遺言者の意思・意向、⑥受遺者との関係、⑦遺言の内容を総合的に考慮して判断する。
(4)遺言無効が争われる事案では、遺言者はすでに死亡しているから、医療記録や施設の入所記録、関係者の供述、介護認定や後見等の手続きがされている場合はその関係資料等から事後的に検討するほかない。
 しかし、これらの文書は作成意図が異なり、能力に関する記載内容に相当なばらつきがみられる場合もよくある。

3 判決の内容
(1)遺言者は90歳前後と高齢である上、本件当時、認知症の診断を受け、施設に入所しており、介護保険認定手続において作成された主治医意見書では、ほぼ寝たきりで座位保持が困難、認知症の中核症状に当たる症状がみられるなど、遺言能力の欠如をうかがわせる記載があった。
 なお、この主治医意見書については、介護保険認定手続のために形式的に作成されたものあり、当時の遺言者の状況を正確に反映したものではない、と評価した。
(2)これに対して、医療記録や施設の入所記録からは、本件遺言の作成の前後において、認知症の典型的な症状とみられるエピソードには乏しく、施設職員とのコミュニケーションでも特段問題となる点はみられないほか、HDS-R検査(長谷川式認知症スケール)の結果は、18~20点であり、施設内のレクリエーションに参加し、車椅子を自操して、施設内を移動する等の自発的な行動がみられた。
 なお、HDS-R検査(長谷川式認知症スケール)で20点前後という結果は、「認知症の疑いがある(境界域〜軽度)」状態を意味する。
(3)本件遺言の内容は単純であり、当時の人間関係を考慮すればその内容も不合理とまでは言えないこと、本件遺言の作成公証人は、遺言者の同行者(長男)とは離れたところに座ってもらい、遺言者に対し、誘導的な聞き方をせず、「誰に相続させたいのか」等と質問する形で意思確認をし、遺言能力を確認していること等を考慮して遺言能力を認めた。

解説
 遺言能力についてどのように検討するか、実務の参考にになる判例です。

 

弁護士 井上正人
 この記事の著者・監修 弁護士 井上 正人(いのうえ まさと) 大阪弁護士会所属(登録番号:43449) /
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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