民事訴訟

令和4年度の司法試験の問題を教えて下さい。

2026/08/08 更新

[民事系科目]
〔第3問〕 〔設問1〕 〔設問3〕 (配点:100[ から までの配点の割合は、45:30:25])
次の文章を読んで、後記の から までに答えなさい。 〔設問1〕 〔設問3〕
なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、試験時に施行されている法令に基づいて答えなさい。また、商号のうち「株式会社」は省略して差し支えありません。

【事 例】
1.動画コンテンツの企画・制作を行う会社(商号「株式会社Mテック」)(この会社は平成30年5月21日に設立された。以下、この会社を「甲」という。)の設立者で代表取締役であるAは、事務所の移転先を検討していたところ、都内に雑居ビルを所有するXを知人から紹介された。Xが同ビルの4階部分(以下「本件事務所」という。)を勧めるとAは即決し、令和2年4月10日、Xは甲との間で、賃料を月額30万円、毎月末日に翌月分を支払う、期間を2年とすることを主な内容とする賃貸借契約を締結した(以下「本件賃貸借契約」という。)。同月14日、Aは、本件事務所の所在地を甲の本店とする本店移転の登記をし、Xにその旨を伝えた。
2.移転後の甲の業績は当初好調であったが、令和2年10月頃から徐々に業績が悪化し、運転資金に不足が生じるようになった。賃料の支払が滞り、令和3年3月の時点で賃料の未払は3か月に及んだ。
Xは、同年3月10日、甲に対し、3月末日までに未払賃料の全額を支払うように催告するとともに、その支払がなければ、本件賃貸借契約を解除するとの意思表示をし、訴えを提起して明渡しを求める旨を内容証明郵便で通知した。甲は、期間内に未払賃料を支払わなかった。Aは、Xの訴えを空振りさせて時間稼ぎができるように一計を案じ、同年4月2日、まず甲の商号を「株式会社Gテック」に、代表取締役をAの配偶者であるBに変更し、商号の変更等の登記をした。さらにAは、同日、代表取締役をA、商号を「株式会社Mテック」とする株式会社を設立し、設立の登記をした(以下、新設された会社を「乙」という。)。乙の商業登記簿上の本店所在地、目的等は甲のそれと同一であった。
3.Xは、令和3年4月20日、Aによる一連の行為を知らぬまま、本件事務所の所在地を住所とする「株式会社Mテック」を被告として表示し、請求の原因として、⑴原告は、被告との間で、令和2年4月10日に本件事務所につき賃貸借契約を締結した、⑵原告は、同日、本件事務所を被告に引き渡した、⑶原告は、被告が令和3年1月分以降の賃料を支払わないため、催告の上同契約を解除した(以下省略)旨を記載した訴状を作成し、賃貸借契約の終了に基づき、本件事務所の明渡しを求める訴えを提起した(以下、この訴えに係る訴訟手続を「本件訴訟」という。)。なお、訴状には、同年4月16日に発行された乙の代表者事項証明書が附属書類として添付されていた。代表者事項証明書には、会社の商号、本店所在地、法人番号、代表者の資格、氏名及び住所の記載はあるが、会社の設立年月日については記載がないため、Xは、乙を甲と誤認していた。
4.第1回口頭弁論期日の呼出状を受領したAは、Xの請求を棄却するとの判決を求める旨を記載した答弁書を提出したものの、同期日には出頭しなかった。なお、答弁書には、請求の原因に対する認否につき、「追って認否する。」とのみ記載されていた。
5.第2回口頭弁論期日に出頭したAは、請求原因事実⑴、⑵及び⑶を認める旨の陳述をした。その際、Aは、同年4月2日付けで行われた甲の商号変更及び新会社乙の設立については一切明らかにしなかった。裁判所は、以上の経過を踏まえて口頭弁論を終結し、判決の言渡期日を指定した。
6.ところが、Aは、判決の言渡期日の直前に、⑴本件訴訟に係る訴えの提起時において「株式会社Mテック」は乙の商号であるから被告は乙である、⑵乙はXとの間で本件賃貸借契約を締結していない、⑶第2回口頭弁論期日におけるXの主張を認める旨の陳述は事実に反するからこれを撤回する、⑷被告たる乙はXに対していかなる債務も負わないからXの請求は棄却されるべきである、として口頭弁論の再開を申し立てた。再開された第3回口頭弁論期日において、Aは、上記と同旨の主張をし、⑴の証拠として、乙の全部事項証明書を提出した。全部事項証明書には、乙の設立年月日が記載されている。裁判所は、Xに対し、対応について検討するように指示し、次回期日を指定した。

以下は、裁判官Jと司法修習生Pとの間の会話である。
J:本件訴訟の被告に疑義が生じていますから、裁判所としては被告を確定しなければなりません。当事者の確定の基準については様々な見解がありますが、ここでは、本件訴訟の被告が甲となるような見解、乙となるような見解をそれぞれ一つ取り上げ、これらの見解に従って、被告を甲又は乙と確定することができることをそれぞれ論じてもらえますか。これを「課題1」とします。
P:承知しました。
J:次に、仮に被告を乙と確定した場合について、裁判所は、第2回口頭弁論期日における乙の代表者としてのAの陳述につき、自白が成立していると取り扱うべきか、仮に自白が成立しているとすると、再開後の第3回口頭弁論期日における自白の撤回をどのように取り扱うべきかを検討してください。これを「課題2」とします。なお、最高裁判所昭和48年10月26日第二小法廷判決・民集27巻9号1240頁(以下「最判昭和48年」という。)は、新旧会社が実質的に同一という事案において、新会社が旧会社と別人格であることを信義則によって実体法上否定し、新会社は旧会社の責任を負うべきものとしましたが、課題1及び課題2について最判昭和48年を考慮する必要はありません。

〔設問1〕
あなたが司法修習生Pであるとして、Jから与えられた課題1及び課題2について答えなさい。


【事 例(続き)】
7.第3回口頭弁論期日後、本人訴訟を続けることに不安を覚えたXは、相談のため弁護士Lの事務所を訪問した。Lは、事件の経過を一通り確認し、本件訴訟の被告が甲と確定される可能性は必ずしも高くはないとの見方を示した。Xは、Lの指摘を踏まえ、甲に対する給付判決を得て、本件事務所の明渡しを実現したい旨をLに伝え、対処法の検討を依頼した。
以下は、弁護士Lと司法修習生Qとの間の会話である。
L:Xは、甲に対する給付判決を得たいとのことですが、本件訴訟の被告が乙と確定されることを前提とした場合に、Xにとって便宜な手段はありますか。
Q:甲を被告に追加する主観的追加的併合を申し立てることが考えられます。もっとも、最高裁判所昭和62年7月17日第三小法廷判決・民集41巻5号1402頁(以下「最判昭和62年」という。)は、この場合につき、仮に新旧両訴訟の目的たる権利又は義務につき現行の民事訴訟法(以下「法」という。)第38条所定の共同訴訟の要件が具備する場合であっても、新訴が法第152条1項の適用をまたずに当然に旧訴訟に併合されるとの効果を認めることはできない旨判示しました。最判昭和62年によれば、甲に対して別訴を提起し、裁判所の裁量により弁論が併合されるのを待つしかないと思います。
L:基本はそのとおりですが、本件訴訟においてXが被告の追加を求めるに至った原因が、甲が被告にならないように乙を設立して甲の旧商号を乙に使用させたAの一連の行為にあるとしますと、Xには主観的追加的併合を求めるだけの理由があると思います。それでも最判昭和62年と同様に考えるべきでしょうか。
Q:最判昭和62年が主観的追加的併合を認めた場合の問題として指摘したのは、主として次の4点に整理できると思います。第1に、新たな当事者に対する別訴(新訴)に対し、係属中の訴訟(旧訴訟)の訴訟状態を当然に利用できるとは限らないので、訴訟経済に資するとはいえないこと、第2に、全体として訴訟を複雑化させる弊害が予測されること、第3に、訴訟の途中で被告の間違いや被告の脱漏が判明しても、原告は被告を追加できるため、軽率な提訴等が誘発されるおそれがあること、第4に、新訴の提起の時期いかんによっては訴訟の遅延を招きやすいことで
す。
L:そうですね。では、これらの4点を踏まえ、甲を被告に追加するXの申立てが認められるよう
に立論してもらえますか。これを「課題」とします。

〔設問2〕
あなたが司法修習生Qであるとして、Lから与えられた課題について答えなさい。

【事 例(続き)】
8.本件訴訟の被告は乙と確定された。そこで、Xから訴訟委任を受けたLは、甲を被告として、本件
賃貸借契約の終了に基づき、本件事務所の明渡しを求める訴えを提起した。第1回口頭弁論期日に出
頭したBは、令和3年1月15日、甲はXとの間で賃料の支払猶予につき協議し、支払が遅れた賃料
及びその後2か月分の賃料の支払を猶予する旨の合意(以下「本件合意」という。)が成立したため、
Xは本件賃貸借契約を解除することはできないと主張し、「賃料支払猶予合意書」と題する電子ファ
イル(以下「本件合意書」という。)を保存したUSBメモリを証拠として申し出た。Bの説明によ
れば、本件合意書は、Aがコンピュータで賃貸人記名欄を未入力にした原案を作成し、Xに対し電子
メールで送信し、Xが内容を確認した上で賃貸人記名欄に氏名及び住所を入力して完成させた後、U
SBメモリに保存し、Aに渡されたものとのことである。これに対し、Lと共に出頭したXは、本件
合意の成立を否認し、本件合意書は知らないと反論した。
以下は、裁判官Jと司法修習生Pとの間の会話である。
J:Bが証拠として申し出たUSBメモリは、情報を電磁的に記録する媒体であり、情報の読み出
しにはコンピュータやプリンター等の出力機器が不可欠ですから、新種証拠と呼ばれます。Xが
本件合意の成立を否認している以上、USBメモリを取り調べる必要があります。新種証拠の証
拠調べの方法をめぐっては、見解の対立がありますが、電磁的記録媒体のうち録音テープ及びビ
デオテープについては法第231条により立法的に解決されました。これに対し、USBメモリ
のようなコンピュータ用の記録媒体は、同条に挙がっていないため解釈が必要です。良い機会で
すから、この種の記録媒体の取り調べは書証によるべきであるとの見解に立って、同条をUSB
メモリに適用することができることを論証してもらえますか。
P:USBメモリは、法第231条の「情報を表すために作成された物件で文書でないもの」に該
当し、同条を適用することができる理由を明らかにせよということですね。
J:そのとおりです。ただし、論証する際には、まず「文書」を定義して、USBメモリが「文書
でないもの」に当たることを論証してください。その上で、USBメモリを録音テープ等と同様
に取り調べることが許容される理由を明らかにしてください。以上を「課題」とします。

〔設問3〕
あなたが司法修習生Pであるとして、Jから与えられた課題について答えなさい。

弁護士 井上正人
 この記事の著者・監修 弁護士 井上 正人(いのうえ まさと) 大阪弁護士会所属(登録番号:43449) /
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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