民事訴訟

【重要判例】判例(文書提出命令を拒否する理由となる、「公務員の職務上の秘密」)

2026/08/11 更新

4号文書と「公務員の職務上の秘密」

(1)4号文書は、民事訴訟法220条4号が定める除外事由がない限り、文書の提出義務を負うという一般的な提出義務が認められていることを定めています。
(2)しかし、「公務員の職務上の秘密」(民事訴訟法220条4号ロ)にあれば、文書提出命令は認められない。
(3)最決平成17年10月14日民集59巻8号2265頁は以下のことを明確にしました。
(4)「公務員の職務上の秘密」(民事訴訟法220条4号ロ)とは、公務員が職務上知り得た非公知の事項であって、秘密として取り扱われているもの(形式秘)では足らず、実質的にもそれを秘密として保護するに値するもの(実質秘)をいうこと。
(5)「公務員の職務上の秘密」には、公務員の所掌事務に属する秘密だけでなく、公務員が職務を遂行する上で知ることができた私人の秘密であって、それが本案事件において公にされることにより、私人との信頼関係が損なわれ、公務の公正かつ円滑な運営に支障を来すこととなるものも含まれること
(6)民訴法220条4号ロにいう「その提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」とは、単に文書の性格から公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずる抽象的なおそれがあることが認められるだけでは足りず、その文書の記載内容からみてそのおそれの存在することが具体的に認められることが必要であること、を明確にしました(山本和彦「Law Practice民事訴訟法〔第5版〕」227頁以下)。
(7)なお、(6)の具体的な例として行政内部の意思決定の事由が害される可能性などが考えられると指摘されています(山本和彦「Law Practice民事訴訟法〔第5版〕」228頁以下)。

民事訴訟法220条 文書提出義務
 次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
 一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
 二 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。
 三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。
 四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。
 イ 文書の所持者又は文書の所持者と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書
 ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの
 ハ 第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書
 ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)
 ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書

最決平成17年10月14日民集59巻8号2265頁

1 事案

(1)労災で死亡した子の相続人であるXが勤務先に対し安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を行った。
(2)Xは労働基準監督署に、労災の認定書類の一つである「災害調査復命書」の開示を求めた。
(3)労働基準監督署が、「公務員の職務上の秘密」(民事訴訟法220条4号ロ)にあたるとして、文書提出命令は認められないと主張した。

2 判決

 「民訴法220条4号ロにいう「公務員の職務上の秘密」とは、公務員が職務上知り得た非公知の事項であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいうと解すべきである(最高裁昭和48年(あ)第2716号同52年12月19日第二小法廷決定・刑集31巻7号1053頁、最高裁昭和51年(あ)第1581号同53年5月31日第一小法廷決定・刑集32巻3号457頁参照)。そして、上記「公務員の職務上の秘密」には、公務員の所掌事務に属する秘密だけでなく、公務員が職務を遂行する上で知ることができた私人の秘密であって、それが本案事件において公にされることにより、私人との信頼関係が損なわれ、公務の公正かつ円滑な運営に支障を来すこととなるものも含まれると解すべきである。」
「次に、民訴法220条4号ロにいう「その提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」とは、単に文書の性格から公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずる抽象的なおそれがあることが認められるだけでは足りず、その文書の記載内容からみてそのおそれの存在することが具体的に認められることが必要であると解すべきである。」

参考
 小林秀之「判例講義民事訴訟法」180頁以下
 山本和彦「Law Practice民事訴訟法〔第5版〕」227頁以下

弁護士 井上正人
 この記事の著者・監修 弁護士 井上 正人(いのうえ まさと) 大阪弁護士会所属(登録番号:43449) /
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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