民事訴訟

Q 平成21年度の旧司法試験の第1問の解答を教えて下さい。

2026/08/27 更新


第1 
 1 事実
(1)Xは、3000万円のうちの2000万円を請求する明示的一部請求を提起した。
(2)当事者は、整備不良であることの主張していないが、裁判所は同事実を理由に過失相殺(民法722条)ができるのか。
(3)裁判所は、Ⅹの被った損害額は2500万円である。5割の過失があると考えている場合にどのような審理をすべきか。
 2 問題
(1)まず、当事者が過失相殺についての事実をを主張していないのに、裁判所が過失相殺を認めることは弁論主義に反しないか。
 3 弁論主義
(1)弁論主義は、民事訴訟においては、当事者は裁判の基礎となるべき事実及び証拠の収集、提出において、当事者がこれを決定する権限を有し、その義務を負う、という原則である。
(2)弁論主義の根拠は、民事訴訟で審理の対象となる紛争については、もともと当事者が自由に話し合って解決することができるものであるからである(私的自治説)。
 3 弁論主義の第一テーゼ
(1)裁判所は、当事者の主張しない事実を裁判の基礎として採用してはならない。
(2)なお、ここでいう事実は主要事実に限られる。間接事実や間接事実まで、当事者の主張がない限り認められないとすると、裁判所が自由に事実を認定することができなくなるからである(自由心証主義)。
 4 評価根拠事実
(1)民法709条の「過失」は法的評価である。これを基礎づける具体的事実が主要事実である。
(2)過失相殺についても民法722条の過失相殺も、これを基礎づける具体事実が主張事実となる。
 5 過失相殺の主張の要否
(1)過失相殺を基礎づける事実の主張がないのに、裁判所は過失相殺を認めることは弁論主義違反である、とかんがえるのは原則である。
(2)しかし、例えば、交通事故と後遺症との論理的な因果関係が不明な場合には、慰謝料等の認定よって裁量的な調整を図り妥当な結論を出す工夫がされている。
(2)過失相殺についても、損害の調整的な要素があり、当事者の具体的な事実の主張がなくても過失相殺をみとめてよいのではないか、という考え方も有力である。
(3)しかし、当事者の主張がなく、過失相殺が認められれば、当事者にとって不意打ちとなる(当該事実について争う機会を失わせることになる)。
(4)よって、当事者の主張がない場合に、裁判所は過失相殺について釈明義務を負う(民事訴訟法143条)。
 5 あてはめ
(1)当事者は、整備不良であることの主張していないので、裁判所は同事実について過失相殺(民法722条)の根拠事実として主張するように釈明すべきである。
(2)仮に、当事者が同事実を認めたとして、裁判所はどのような判決をすべきであろうか。
 6 問題
(1)甲の請求は2500万円のうち2000万円を請求するものであるから、明示的一部請求となる。
(2)裁判所は、Ⅹの被った損害額は2500万円である。5割の過失があると考えている場合にどのような審理をすべきか。
 7 明示的一部請求と外側説
(1)確かに、明示的一部請求については、その一部請求のみが訴訟物となる。
(2)しかし、明示的一部請求について、被告が弁済等の抗弁を提出した場合に、この弁済等は債権の全額から充当されるべきである。
(3)なぜなら、明示一部請求においては、その残部を含めた請求全額について審理されて、その額が原告の請求額を超えていれば原告の請求額を、原告の請求額を下回ればその額を認定すべきである。そして、原告がその全部又は一部について敗訴した場合には、原告はその残部について後訴を提起することは信義則上許されない。
 このように理解することが、原告の合意的意思に合致し、かつ紛争の一回的解決となるからである。
 7 あてはめ
(1)Ⅹの被った全損害2500万円の5割は、1250万円である。・・・①
(2)Xの請求額は2000万円である。・・・②
(3)②より①は小さいので、裁判所は原告の請求を1250万円の限度で認容すべきである。
 以上

弁護士 井上正人
 この記事の著者・監修 弁護士 井上 正人(いのうえ まさと) 大阪弁護士会所属(登録番号:43449) /
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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