【重要判例】判例(文書提出命令を拒否する理由となる、「職業の秘密」)
2026/08/12 更新
4号文書と「職業の秘密」
(1)4号文書は、民事訴訟法220条4号が定める除外事由がない限り、文書の提出義務を負うという一般的な提出義務が認められていることを定めています。
(2)しかし、「職業の秘密」(民事訴訟法220条4号ハ、民事訴訟法197条1項3号)にあれば、文書提出命令は認められない。
(3)最決平成20年11月25日民集62巻10号2507頁は以下のことを明確にしました。
(4)民事訴訟法220条4号ハ、民事訴訟法197条1項3号の「職業の秘密」とは、その事項が公表されると、当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいう、こと
(5)金融機関が顧客から守秘義務を負うことを前提に提供された情報について、当該顧客が訴訟当事者として裁判手続上に開示義務を負う場合には、金融機関が職業の秘密として保護に値する独自の利益を有する場合は別として、その情報は、職業の秘密にあたらないこと
(6)民事訴訟法220条4号ハ、民事訴訟法197条1項3号の「職業の秘密」にあたるかは、当該の情報の内容、開示することによる開示者の不利益、民事裁判の内容、民事裁判の証拠として当該文書を必要とする程度等を考慮して判断されること、を明確にしました。
| 民事訴訟法220条 文書提出義務 次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。 一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。 二 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。 三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。 四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。 イ 文書の所持者又は文書の所持者と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書 ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの ハ 第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書 ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。) ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書 |
最決平成20年11月25日民集62巻10号2507頁
文書A(本件非公開財務情報)について
「金融機関は,顧客との取引内容に関する情報や顧客との取引に関して得た顧客の信用にかかわる情報などの顧客情報について,商慣習上又は契約上の守秘義務を負うものであるが,上記守秘義務は,上記の根拠に基づき個々の顧客との関係において認められるにすぎないものであるから,金融機関が民事訴訟の当事者として開示を求められた顧客情報について,当該顧客が上記民事訴訟の受訴裁判所から同情報の開示を求められればこれを開示すべき義務を負う場合には,当該顧客は同情報につき金融機関の守秘義務により保護されるべき正当な利益を有さず,金融機関は,訴訟手続において同情報を開示しても守秘義務には違反しないと解するのが相当である(最高裁平成19年(許)第23号同年12月11日第三小法廷決定・民集61巻9号3364頁参照)。民訴法220条4号ハにおいて引用される同法197条1項3号にいう「職業の秘密」とは,その事項が公開されると,当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいうが(最高裁平成11年(許)第20号同12年3月10日第一小法廷決定・民集54巻3号1073頁参照),顧客が開示義務を負う顧客情報については,金融機関は,訴訟手続上,顧客に対し守秘義務を負うことを理由としてその開示を拒絶することはできず,同情報は,金融機関がこれにつき職業の秘密として保護に値する独自の利益を有する場合は別として,職業の秘密として保護されるものではないというべきである。」
文書B(本件分析評価情報部分)について
「文書提出命令の対象文書に職業の秘密に当たる情報が記載されていても,所持者が民訴法220条4号ハ,197条1項3号に基づき文書の提出を拒絶することができるのは,対象文書に記載された職業の秘密が保護に値する秘密に当たる場合に限られ,当該情報が保護に値する秘密であるかどうかは,その情報の内容,性質,その情報が開示されることにより所持者に与える不利益の内容,程度等と,当該民事事件の内容,性質,当該民事事件の証拠として当該文書を必要とする程度等の諸事情を比較衡量して決すべきものである(最高裁平成18年(許)第19号同年10月3日第三小法廷決定・民集60巻8号2647頁参照)。
一般に,金融機関が顧客の財務状況,業務状況等について分析,評価した情報は,これが開示されれば当該顧客が重大な不利益を被り,当該顧客の金融機関に対する信頼が損なわれるなど金融機関の業務に深刻な影響を与え,以後その遂行が困難になるものといえるから,金融機関の職業の秘密に当たると解され,本件分析評価情報も抗告人の職業の秘密に当たると解される。
しかし,本件分析評価情報は,前記のとおり民事再生手続開始決定前の財務状況,業務状況等に関するものであるから,これが開示されてもAが受ける不利益は小さく,抗告人の業務に対する影響も通常は軽微なものであると考えられる。一方,本案訴訟は必ずしも軽微な事件であるとはいえず,また,本件文書は,抗告人と相手方らとの間の紛争発生以前に作成されたもので,しかも,監督官庁の事後的検証に備える目的もあって保存されたものであるから,本件分析評価情報部分は,Aの経営状態に対する抗告人の率直かつ正確な認識が記載されているものと考えられ,本案訴訟の争点を立証する書証としての証拠価値は高く,これに代わる中立的・客観的な証拠の存在はうかがわれない。
そうすると,本件分析評価情報は,抗告人の職業の秘密には当たるが,保護に値する秘密には当たらないというべきであり,抗告人は,本件分析評価情報部分の提出を拒絶することはできない。」
余談
文書の所持者は、文書提出命令について自己利用であることも争っている。上記の判決は、職業上の秘密として争った部分の判決である(小林秀之「判例講義民事訴訟法」188頁)。
参考
小林秀之「判例講義民事訴訟法」188頁
民事訴訟法判例百選【第6版】136頁




