Q 令和2年度の司法試験の問題を教えて下さい。
2026/08/09 更新
[民事系科目]
〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,40:20:40])
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
なお,解答に当たっては,文中において特定されている日時にかかわらず,試験時に施行されている法令に基づいて答えなさい。
【事 例】
1.Xは,旧友Aとの間で,Xが所有する賃貸用建物(以下「本件建物」という。)について,賃料月額20万円,期間の定めなしとの約定でAに賃貸するとの賃貸借契約(以下「本件契約」という。)を締結し,Aに対し,本件契約に基づき,本件建物を引き渡した。
2.Aは,本件建物で書店を経営し,Aの子であるY1及びY2(以下「Yら」という。)が書店を手伝っていた。
3.Aは,5月に死亡した。Aの配偶者は,既に死亡しており,Aの相続人は,Yらのみである。
Yらは,まだAの遺産についての遺産分割をしていない。
4.Xは,7月末,Yらに対し,「XとAは,今年の4月1日,本件契約について9月30日をもって終了するとの解約の合意をした。Aは,その際,Xに対し,9月30日までに本件建物を明け渡すと言った。」と述べた上で,本件建物の明渡しの具体的な時期を問い合わせた。
5.Y1とY2は,8月初め頃に話合いをした。この話合いの場において,Y1は,「Aから本件契約の解約の合意をしたとは聞いていない。Y1とY2は,相続によってAから本件建物の賃借権を承継し,書店の経営も引き継いでいる。Y1は,Xに対し,Aの死亡後,Y1が本件契約に基づく賃料の請求先となったことを知らせたが,Xは,本件契約が終了するとは言わずに,これを了承した。また,本件契約に基づく賃料は,現在まで滞りなく支払ってきた。」とし,本件建物を明け渡す必要はないと述べた。これに対し,Y2は,「本件建物を明け渡し,敷金を返還してもらった方がよい。Y2は,Aの生前,Aから,Xに敷金を差し入れてあると聞いていた。実際に,本件契約を締結した頃の日付で120万円を受領した旨のX名義の受領書がAの遺品の中にあった。この受領書が敷金の差し入れの証拠になる。」と述べた。
6.Y2が8月中旬に,Xに対して敷金が全額返還されるか問い合わせたところ,Xは,Y2に対し,「8月分まで賃料の滞納はなく,本件建物をきれいに使ってくれて修繕の必要もない。しかし,Aから本件契約の締結時に受け取ったのは礼金であって,返還の必要のある敷金ではない。」と述べた。
7.そこで,Y2は,その翌日,かねてより相談していた弁護士Lに,上記1から6までの経緯を説明した上で,Xから敷金を返還してもらうことができるかどうかを検討してもらうこととした。
以下は,弁護士Lと司法修習生Pとの間の会話である。
L:Y2は本件建物を明け渡して敷金を返還してもらうことを希望しています。Y1が本件契約の解約の合意を争っているため,本件建物の明渡しの見通しはついていませんが,Xに対し敷金返還を請求する訴えを提起した場合に,本件建物の明渡しをしないままの状態であっても,本案判決を得ることはできるでしょうか。ここでは,敷金返還請求権は,賃貸借終了後,不動産が明け渡されたときに,敷金によって担保されるそれまでに生じた一切の債務の額を控除した残額につき発生するものと考えましょう。
P:そうすると,本件建物の明渡し前には敷金返還請求権は発生しないので,将来給付の訴えの適法性を検討せよということですね。敷金返還請求権が本件建物の明渡しを条件とする条件付請求権ということであれば,将来給付の訴えの適法性が認められるのではないでしょうか。
L:条件付請求権であっても,将来給付の訴えの適法性が認められるとは限りませんよ。ここでは,Y2の法定相続分が2分の1であることを考慮し,60万円のみの請求をすることとして,「Xは,Yらから本件建物の明渡しを受けたときは,Y2に対し,60万円を支払え。」との請求の趣旨による将来給付の訴えの適法性につき検討してもらいましょう。これを「課題1」とします。検討の際には,本件の具体的状況を踏まえた上で,敷金返還請求権の特質のほか,当事者間の衡平の観点から,適法性が認められた場合の被告の負担を考慮する必要があります。ただし,応訴の負担は考慮する必要がありません。
P:はい,分かりました。ところで,もし,将来給付の訴えの適法性が認められないという結論になるとすると,敷金に関する確認の訴えを提起することになるのでしょうか。
L:良い機会ですから,将来給付の訴えが不適法とされる場合に備え,敷金に関する確認の訴えの利益についても考えましょう。Y2の立場から,どのような訴えであれば確認の利益が認められるかを検討してください。その際には,既判力により確定する必要性を考慮して,なぜその訴えであれば確認の利益が認められるのかについて説明してください。これを「課題2」とします。
〔設問1〕
あなたが司法修習生Pであるとして,Lから与えられた課題1及び課題2について答えなさい。
【事 例(続き)】
8.Xは,Yらが9月30日を経過しても本件建物の明渡しをしないことから,Yらを被告として,本件契約の終了に基づく本件建物の明渡しを求める訴えを提起した(以下,この訴えに係る訴訟を「本件訴訟」という。)。Xは,訴状において,Yらの被相続人であり,本件契約の相手方当事者であったAとの間で本件契約の解約の合意がされた旨主張している。
9.本件訴訟は,裁判官Jが単独で審理及び裁判をすることとなった。本件訴訟の第1回口頭弁論期日において,Xは,訴状を陳述した。これに対し,Yらはいずれも,請求を棄却するとの判決を求め,本件契約の解約の合意について,Y1は否認し,Y2は知らないとした。
10.その後に指定された和解期日において,裁判官Jが他の当事者を退席させた上でX,Y1,Y2を順次個別に面接する方式により,和解協議が実施された。Y2は,その際,裁判官Jに対し,「Xは,Aが差し入れた敷金を礼金であるとして返還しようとしないが,敷金を返還してくれるのであれば,Y2は,Xに本件建物を明け渡してもよい。Y2としては,無理に書店の経営を続けなくともよいのではないかと思っている。今から思えば,Aも,日頃から店の経営不振に悩んでおり,Xに相談しているという話もしていた。本件建物を明け渡して敷金が戻るような和解が成立することを希望している。」と述べた。しかし,Y1が飽くまで本件契約の継続を希望したため,和解は成立しなかった。
以下は,裁判官Jと司法修習生Qとの間の会話である。
J:今日は和解成立には至りませんでした。和解手続における当事者の発言内容をその後の判決に影響させることがないように,注意する必要があります。
Q:それでは,先ほどの和解期日におけるY2の発言から,XA間の解約の合意は存在したという心証を得て,それに基づいて判決をすることはできないのですね。
J:もちろん許されません。それを理解してもらうために,まず,民事訴訟法においては,裁判所は何を心証形成の資料とすることができるとされているのかを示した上で,和解期日におけるY2の発言がそれに当たらないことを説明してください。また,和解手続における当事者の発言内容を心証形成の資料とすることができるとすると,どのような問題が生ずるかについて,理由を示して検討してください。これらを「課題」とします。
〔設問2〕
あなたが司法修習生Qであるとして,Jから与えられた課題について答えなさい。
【事 例(続き)】
11.本件訴訟の第2回口頭弁論期日において,Xは,Aが生前にXとの間で本件契約の解約の合意をしていたことを裏付けるため,「Xは,4月3日,本件建物の内外を検分し,Aに対して,『大変きれいに使ってくれていますね。これなら修繕の必要はない。』と述べるなど,Aとの間で本件建物の明渡しの準備について話をした。Y2は,書店の手伝いをしていたことから,その際,XとAとの会話を聞いたはずである。」と主張した。これに対し,Y2は,「4月3日にXが主張するXとAの会話を聞いた記憶はない。Aが作成していた業務日誌を見ても,Xとの間で本件契約の解約や本件建物の明渡しを前提とした会話があったことは記載されていない。」と主張し,Xが主張するような会話がなかったことを立証するため,Aが作成した同日の業務日誌(以下「本件日誌」という。)を提出して書証の申出をした。裁判所は,同期日において,本件日誌を取り調べた。
12.本件訴訟の第3回口頭弁論期日が指定された後,X,Y1及びY2は,訴訟外で解決に向けた協議をした。その結果,XとY1の間では協議が整わなかったが,XとY2の間では,解決に向けた合意がされ,XがY2に対する訴えを取り下げることとなった。そこで,Xは,裁判所に対し,Y2に対する訴えの取下書を提出し,それを受け,Y2は,裁判所に対し,Xの訴えの取下げに同意する旨の書面を提出した。
以下は,裁判官Jと司法修習生Rとの間の会話である。
J:XがY2に対する訴えの取下書を提出し,Y2もその同意書を提出しています。XはY2に対する訴えのみを取り下げることができるのでしょうか。
R:それを考えるに当たっては,まず,本件訴訟が共同訴訟のどの類型に当たるのかを考慮する必要があります。
J:そうですね。それでは,その結果を踏まえて,XはY2に対する訴えのみを取り下げることができるのかを検討してください。これを「課題1」とします。
また,仮にXがY2に対する訴えのみを取り下げることができるとして,残されたXとY1のみの訴訟において本案判決がされる場合に,第2回口頭弁論期日にY2が提出した本件日誌の取調べの結果を事実認定に用いてよいかを,共同訴訟における証拠調べの効果及びそれが訴えの取下げによって影響を受けるかどうかを踏まえて検討してください。これを「課題2」とします。
〔設問3〕
あなたが司法修習生Rであるとして,Jから与えられた課題1及び課題2について答えなさい。




