民事訴訟

Q 令和3年度の司法試験の問題を教えて下さい。

2026/08/08 更新

[民事系科目]
〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,40:20:40])
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
なお,解答に当たっては,文中において特定されている日時にかかわらず,試験時に施行されている法令に基づいて答えなさい。


【事 例】
AとBは,Aを貸主,Bを借主として,Aの所有する土地(以下「本件土地」という。)について,期間を30年,賃料を1か月30万円,目的を建物所有とする賃貸借契約(以下「本件契約」という。なお,本件契約は,事業用定期借地権を設定するものではない。)を締結した。
Bは,本件土地上に,レストラン経営のための店舗建物(以下「本件建物」という。)を建築し,本件建物でレストラン(以下「本件レストラン」という。)を経営してきた。Bが本件契約の締結から20年後に死亡すると,その子であるYが相続により本件土地の賃借人としての地位を承継し,本件レストランの経営を引き継いだ。また,Bの死亡と同じ時期に,AがXに本件土地を譲渡したことから,Xが本件土地の賃貸人としての地位を承継した。
Yは,本件契約の期間満了の3か月前に,Xと面談し,本件契約が期間満了後も更新されることの確認を求めたが,Xは,その場で,以下のように主張しつつ,本件契約の更新を拒絶した。
1.Xの息子Cは,歯科医であり,開業を予定している。本件土地は,Cが歯科医院を営むのに最適の立地条件であることから,本件土地上に歯科医院用の建物を建築することを計画している。
2.XはYに対して立退料として1000万円程度を支払う用意がある。
XY間での交渉はまとまらず,Xは,本件契約の期間満了の直後,本件契約の終了に基づき,「Yは,Xから1000万円の支払を受けるのと引換えに,Xに対し,本件建物を収去して本件土地を明け渡せ。」との判決を求めて,訴え(この訴えに係る訴訟を,以下「本件訴訟」という。)を提起した。
本件訴訟の第1回口頭弁論期日においては,XとYの双方が出頭し,Xが前記1と2記載の主張をしたのに対して,Yは,本件レストランの経営継続を予定しているところ,離れた地に移転してしまうと経営が成り立たず,近隣において適当な土地を取得することは困難である旨及びXから申出があった程度の立退料では本件レストランの収入喪失まで補償するには全く不十分である旨を主張した。
また,この期日において,裁判官Jは,訴状の請求の趣旨には,「1000万円の支払を受けるのと引換えに」と記載してあるが,他方で,Xが1000万円程度を支払う用意がある旨を申し出た旨を主張していることから,1000万円という額にどの程度のこだわりがあるかという点についてXに釈明を求めた。これに対して,Xは,「1000万円という額に強いこだわりはありません。この額は,早期解決の趣旨で若干多めに提示したものですので,早期解決の目がなくなった以上,より少ない額が適切であると思っておりますが,本件土地を明け渡してもらうのが一番大事ですから,裁判所がより多額の立退料の支払が必要であると考えるならば,検討する用意があります。」と陳述し,その要旨は口頭弁論調書にも記載された。

以下は,裁判官Jと司法修習生Pとの間の会話である。
J:Xは,立退料の支払を申し出ていますね。立退料は,借地借家法第6条の正当事由の有無を判断する上で,どのような役割を担うのでしょうか。
P:借家に関してですが,判例は,立退料は他の諸般の事情と総合考慮され,相互に補充しあって正当事由の判断の基礎となるものであるとしています(最高裁判所昭和46年11月25日第一小法廷判決・民集25巻8号1343頁。以下「最判昭和46年」という。)。
J:そうすると,裁判所が正当事由を認める上で必要と考える立退料額がXの申出額よりも多額である場合は,どういう判決をすることになりますか。
P:最判昭和46年は,原告は「立退料として300万円もしくはこれと格段の相違のない一定の範囲内で裁判所の決定する金員を支払う旨の意思を表明し,かつその支払と引き換えに(中略)店舗の明渡を求めている」と述べた上で,申出額よりも多額である500万円の支払との引換給付判決をした原判決を是認しています。本件でも,Xの第1回口頭弁論期日における陳述の内容から見て,Xの申出額と格段の相違のない範囲内で増額した立退料の支払との引換給付判決は許容されそうです。
J:それはそうでしょうね。それでは,申出額と格段の相違のない範囲を超えて増額した立退料の支払との引換給付判決はどうでしょうか。
P:最判昭和46年に照らすと難しいと思います。
J:そう結論を急がないでください。最判昭和46年は,格段の相違のない範囲を超えて増額した立退料の支払との引換給付判決の許否について直接判断したものではありません。また,格段の相違のない範囲を超えて増額した立退料の支払との引換給付判決を拒否するというのがXの意思であるとは直ちにはいえないように思います。
P:確かにそうですね。
J:それでは,引換給付判決をすることができないとすると,その場合にすべきことになる判決はどのようなものとなるのかを示し,その判決を,Xの申出額と格段の相違のない範囲を超えて増額した立退料の支払との引換給付判決と対比した上で,後者のような引換給付判決をすることの許否を検討してください。これを「課題1」とします。
ところで,裁判所が正当事由を認める上で必要と考える立退料額がXの申出額よりも少ないということも考えられます。この場合には,Xの申出額よりも少額の立退料の支払との引換給付判決をすることはできるのでしょうか。
P:それは,Xが求めている判決よりも有利な判決をXに与えることになりそうでやや違和感があります。しかし,口頭弁論調書を見ると,Xはより少ない額が適切であるとも陳述していますね。
J:こちらも額によるかもしれないですね。それでは,第1回口頭弁論期日におけるXの陳述の内容にも留意しつつ,Xの申出額よりも少額の立退料の支払との引換給付判決をすることは許容されるかという点も検討してください。これを「課題2」とします。
なお,「課題1」及び「課題2」を検討するに当たっては,どのような事実を判決の基礎にすることができるかという問題と借地借家法第6条に関する実体法上の解釈問題に言及する必要はありません。

〔設問1〕
あなたが司法修習生Pであるとして,Jから与えられた課題1及び課題2について答えなさい。

【事 例(続き)】
本件訴訟が第一審に係属中,弁護士に頼らず自ら訴訟を追行してきたYは,心労もあって健康を害し,以前から本件レストランの経営を手伝っていたZにレストラン経営を任せることとした。
そこで,Yは,Zに本件建物を賃貸し,これに基づき本件建物を引き渡した。
Xは,前記の事実を直ちに察知し,Zを本件建物から立ち退かせなければ,目的は達成することができないと考え,Zに対する建物退去土地明渡請求を定立しつつ,Zが本件訴訟の係属中にYから本件建物を賃借し,これに基づき本件建物の引渡しを受けたことを理由としてZを引受人とする訴訟引受けの申立てをした。

以下は,裁判官Jと司法修習生Pとの間の会話である。
J:本件で,民事訴訟法第50条の承継は認められるのでしょうか。
P:同条の「訴訟の目的である義務」という文言を素直に捉えて,同条にいう承継とは訴訟物である義務の承継を指すと理解するのであれば,Zがこのような義務をYから承継したというのは難しいと思います。
J:しかし,そのような承継の理解は狭すぎるように思います。そこで,そのような理解を離れた上で,訴訟承継制度の趣旨を踏まえて,同条の承継の意味内容を具体的に明らかにし,Zが同条にいう承継をしたといえるか否か検討してください。これを「課題」とします。
なお,検討に際しては,XのYに対する訴えの訴訟物は,賃貸借契約の終了に基づく目的物返還請求権としての建物収去土地明渡請求権であることを前提にしてください。

〔設問2〕
あなたが司法修習生Pであるとして,Jから与えられた課題について答えなさい。

【事 例(続き)】
本件訴訟では,弁論準備手続における争点及び証拠の整理が完了したことから弁論準備手続が終結となり,Cの証人尋問並びにX及びYの当事者尋問が実施され,口頭弁論の終結が予定された口頭弁論期日(以下「最終期日」という。)の指定がされた。本件建物がYからZに対して賃貸され,引き渡されたのは,最終期日の指定がされた直後であり,Xの訴訟引受けの申立ては,最終期日前に認められることとなった。
本件訴訟に従前関わっていないZは,弁護士に頼らずに訴訟を追行するのは難しいと考え,直ちに弁護士Lに訴訟委任をした。Lは,正当事由の判断の基準時が本件契約の期間満了時であるとしても,Yが本件レストランの経営から退いたことが,Yの従前の主張に関して不利にしんしゃくされることもあり得ることから,更新拒絶に正当事由があると評価されるのを妨げる事実を追加して主張するのが適切であろうと考えた。
そこで,Lが改めて本件レストラン経営に係る資料を調査すると,B名義の預金通帳(以下「本件通帳」という。)に,本件契約締結の際にBがAの預金口座に対して1500万円を振り込んだ旨の記帳がされていることを発見した。LがYに対してこれについて質問をすると,「Bから,亡くなる直前に,本件契約の際に権利金としてAの口座にかなりの額を振り込んだ,本件土地の更新時にもめるといけないから,本件通帳はきちんと保管しておくように,と伝えられていました。言われたとおり,本件通帳は本件契約の契約書と共に厳重に保管し,本件訴訟の前にも本件通帳の中身を見てBからAへの振込みも把握していましたが,本件訴訟においてそれほど重要なものとは思っていませんでした。」との回答を得た。その後,Lは,近隣の土地の相場や賃料相場を調査した結果,BからAに支払われた権利金は,賃料の前払の性質だけではなく,更新料の前払の性質も含むものであったと思うに至った。

以下は,弁護士Lと司法修習生Qとの間の会話である。
L:最終期日には,BからAに対して更新料の前払の性質も含む権利金が支払われていた旨の新主張(以下「本件新主張」という。)をするとともに,この事実を立証するために本件通帳についての書証の申出とAの証人尋問の申出をしようと思います。ただ,最終期日にAの証人尋問を実施するというのは無理がありますから,改めて期日を指定してもらうことになります。
Q:Xは,これらの攻撃防御方法の提出は,時機に後れた攻撃防御方法であるとして,却下決定を申し立ててくるのではないでしょうか。
L:その可能性は十分にあります。そこで,差し当たり本件新主張が却下されるか否かについて考えてほしいのです。Xは,①Y自身が最終期日に本件新主張をしたとしたら,時機に後れたものとして却下されるべきである,②そうである以上,Zによる本件新主張も却下されるべきである,と主張してくると思います。まず,Xの立場から,①について,その結論を得るための理由を説明してください。また,その際には,以後予想されるXとY双方の主張立証活動と,却下決定を得るのを容易にするためにXがYに対してすることができる訴訟法上の行為にも言及してください。これを「課題1」とします。
その上で,Xの立場から②についてZによる本件新主張は却下されるべきであるという立論をして,さらに,Zの立場からこれに対する反論をしてください。これを「課題2」とします。
「課題2」の検討に当たっては,Y自身が本件新主張をしたとしたら,時機に後れたものとして却下されるということを前提としてください。

〔設問3〕
あなたが司法修習生Qであるとして,Lから与えられた課題1及び課題2について答えなさい。

弁護士 井上正人
 この記事の著者・監修 弁護士 井上 正人(いのうえ まさと) 大阪弁護士会所属(登録番号:43449) /
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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