民事訴訟

Q 令和5年度の司法試験の問題を教えて下さい。

2026/08/06 更新

[民事系科目]
〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は、25:35:40])
次の文章を読んで、後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、試験時に施行されている法令に基づいて答えなさい。


【事 例】
Xは、Yに対して令和3年5月20日に、弁済期を同年11月末日として200万円を貸し渡し、既に弁済期は到来している旨を主張して、令和4年5月9日、Yを被告として200万円の支払を求める訴えを提起した(以下、この訴えの訴訟物の内容をなす貸金債権を「甲債権」といい、この訴えに係る訴訟手続を「本件訴訟」という。)。
Yは、第1回口頭弁論期日において、Xの主張を認めた上で、主位的に、甲債権に対しては既に弁済をした旨を主張し、予備的に、Xに対する200万円の売買代金債権(以下「乙債権」という。)により相殺する旨の訴訟上の相殺の抗弁を提出した。Yは、乙債権の発生原因事実として、令和3年8月4日にXに対して代金200万円で美術品(以下「本件動産」という。)を売却し、同日引き渡した旨を主張し、この売買契約の締結を証明するため、Xがその配偶者Aに対して送った電子メール(以下「本件メール」という。)の内容をプリントアウトしたもの(以下「本件文書」という。)を証拠として提出した。本件メールは、同月5日付けでXから送信されたものであり、Xの健康状態やXA間の子の学業成績に関する相談とともに、念願の本件動産をYから200万円で購入し、引渡しを受けた旨が記載されていた。
Yが、本件文書を入手した経緯は、以下のようなものであった。甲債権及び乙債権に関する紛争(以下「本件紛争」という。)が顕在化した後、その解決のため、Xは、令和4年3月、X宅にYを呼び寄せ、Xの自室において話合いをした。話合いが難航する中、Xは「一旦休憩しよう、コーヒーでも買ってくる。」と述べ、最寄りのコンビニエンスストアまで一人で赴いた。残されたYは、本件紛争は訴訟に発展する可能性も高いと考え、自己に有利な証拠を探す趣旨で、Xの机の上に閉じた状態で置いてあったノートパソコンを開いたところ、Xがプライベートで利用しているアカウントのメールが閲覧可能な状態になっていることに気付いた。そこで、Yは、自身のUSBメモリにXが送受信した電子メールの全てを保存することとした。保存作業は、Xの帰宅前に終了したため、XがYの行為を認識することはなかった。話合いが終了した後、Yは、自宅において、保存したメールの内容を全て確認し、その結果、自己に有利な本件メールを発見した。本件動産についてのやりとりは全て口頭でなされ、引渡しもYがXに直接交付することによりなされた結果、本件動産の売買の証明に役立つ証拠がなかったことから、Yは、本件紛争が訴訟にまで発展した場合に備えて、本件メールをプリントアウトした。
X及びYは、いずれも弁護士に対して訴訟委任をしていなかったが、第1回口頭弁論期日において、Yが本件文書を提出したことに動揺したXは、本件動産の売買契約締結の事実を否認するにとどめ、同期日終了後に、弁護士L1に訴訟委任をした。


以下は、弁護士L1と司法修習生Pとの間の会話である。
L1:Xは、Yが自分と配偶者との間の電子メールを無断で閲覧した上で、本件文書を証拠として提出するのはひどいと憤っています。本件文書の証拠としての利用を阻止することはできるでしょうか。
P:不当な方法で収集された証拠(いわゆる違法収集証拠)については、民事訴訟でも証拠能力が否定されることがあるということは承知していますが、不勉強で、その根拠も判断基準もあやふやです。
L1:そうですか。しかし、情報技術の発達により、本件文書のような証拠が提出される訴訟事件は増えている一方で、技術上の利便性を不当に利用した証拠収集も容易となっています。そのような方法で入手された証拠を事実認定の資料にすることが許されるかどうかは重要な論点となりますから、少し頑張ってもらおうと思います。本件文書の証明力はそれなりにあると考えられるので、ここでは専ら証拠能力の問題を検討してください。具体的には、⒜民事訴訟において、不当な方法で収集された証拠方法の証拠能力が制限される場合があり得ることを前提として、そのような証拠方法の証拠能力が否定される法的根拠を挙げた上、証拠能力の有無を判断する基準を示し、⒝上記⒜の基準に照らして本件文書の証拠能力を判断するとどのような結論に至るかを明らかにすることを「課題」とします。なお、Yの行為は犯罪行為に該当しないことを前提としてください。

〔設問1〕
あなたが司法修習生Pであるとして、L1から与えられた課題について答えなさい。なお、以下に掲げる【事例(続き)】に記載されている事実関係は考慮しなくてよい。

【事 例(続き)】
Xは、Yによる電子メールの無断閲覧は許し難いものの、本件動産の売買契約締結の事実自体は争い難いと考えた。そこで、第2回口頭弁論期日において、本件動産の売買契約締結の事実を認めた上、乙債権は既に弁済したとの主張をするとともに、仮に弁済が認められないとしても、Yは、Xの亡父Bからかつて200万円を借りており、Xは令和3年9月に死亡したBの唯一の相続人として、BのYに対する貸金債権(以下「丙債権」という。)を相続により取得し、同年10月末日に弁済期が到来した旨、丙債権を自働債権、乙債権を受働債権として相殺するとの意思表示を訴訟外でした旨、及び、丙債権と乙債権の相殺適状は、甲債権と乙債権の相殺適状よりも先に生じており、民法第512条の趣旨からも前者の相殺が優先されるべきである旨の主張を追加した。なお、甲債権についてはYの兄Zが保証しており、Zは、第3回口頭弁論期日から、Yを補助するために補助参加をしている。
受訴裁判所は、Xによる丙債権を自働債権とする相殺の意思表示は、訴訟外で既に確定的になされているため、訴訟上許容されると判断した。その上で、受訴裁判所は、証拠調べを実施し、その結果、①甲債権及び乙債権の発生はいずれも争いがなく、丙債権の存在も認められるところ、甲債権及び乙債権の弁済の事実はいずれも認められない、②Yによる相殺の意思表示は、本件訴訟において裁判所により相殺の判断がされることを条件として実体法上の相殺の効果が生ずるものである一方、Xによる相殺の意思表示は、訴訟外で確定的になされていることから、Xによる相殺の意思表示が優先する、③丙債権と乙債権の相殺適状は、甲債権と乙債権の相殺適状よりも先に生じており、XY間に相殺の充当について別段の合意も認められないことから、Xによる相殺の意思表示により、乙債権と丙債権が消滅したとの心証に至り、Xの請求を認容する旨の判決をした。

以下は、弁護士L1と司法修習生Pとの間の会話である。
L1:原判決は、相殺の再抗弁を認めてXの請求を認容していますが、Xは、そもそも乙債権についての弁済の事実が認められなかったことに不満があるようです。Xが強く希望しているところですので、控訴を提起します。
P:この場合、控訴審では、審理の範囲は、乙債権の存否に限定されるのでしょうか。仮に、甲債権や丙債権も審理の範囲に含まれるとすれば、かえってXに不利益な結果になる可能性もあるように思います。
L1:良い質問ですね。Xの控訴が適法であり、かつ、Y及びZが控訴も附帯控訴もしていないという仮定の下でも、控訴審の審理の範囲は限定されるものではなく、甲債権や丙債権が審理の範囲に含まれると考えていいでしょう。
そこで、上記仮定の下、甲債権と丙債権が審理の範囲に含まれること、並びに原判決が示した相殺の再抗弁の許容性、相殺の優先順位及び相殺の充当に関する判断には変更がないことを前提として、控訴裁判所が、(ア)甲債権は弁済により消滅した、(イ)甲債権と乙債権はいずれも弁済による消滅はしていないが、丙債権の存在は認められない、(ウ)甲債権は弁済による消滅はしていないが、乙債権は弁済により消滅した、という判断に至った場合のそれぞれについて、どのような判決をすべきことになるか、検討してください。これを「課題」とします。なお、利息又は損害金及び費用についてはないものとし、控訴の利益について検討する必要もありません。

〔設問2〕
あなたが司法修習生Pであるとして、L1から与えられた課題について答えなさい。なお、以下に掲げる【事例(続き)】に記載されている事実関係は考慮しなくてよい。

【事 例(続き)】
Xのみが控訴を提起し、Y及びZが控訴も附帯控訴もしなかったところ、控訴裁判所は、原判決は正当であるとの判断に基づき、Xの控訴を棄却する旨の判決をした。誰も上告又は上告受理の申立てをしなかったことから、Xの控訴を棄却する旨の判決が確定したため、Xの請求を認容する第一審判決も確定した(以下、本件訴訟に係る確定判決を「前訴確定判決」という。)。
ところで、Zは、XのYに対する請求が認容されることを阻止するため、第一審において、甲債権を保証している旨を主張して、Yを補助するために参加の申出をした。Zの補助参加にはXもYも異議を述べなかったことから、Zは適法に補助参加人として訴訟追行し得ることとなった。
Zは、第一審の第3回口頭弁論期日において、甲債権については、Yからの要請により、Xが債務を免除した事実(以下「免除の事実」という。)を、丙債権については、ZがYに代わってBに対して弁済した事実(以下「弁済の事実」という。)を主張した上で、免除の事実を証明するためにZ自身の証人尋問の申出をした。しかし、Yは、Yが主張する甲債権の弁済時期よりも免除の事実の時期の方が遅かったことから、同期日において、免除の事実はない旨を主張するとともに、Zの証人尋問の申出を撤回した。なお、弁済の事実は、Xにより争われ、証拠調べが実
施されたが、第一審、控訴審のいずれにおいても認められなかった。
本件訴訟終了後、Zは、Xから保証債務の履行を迫られたことから、かねて付き合いのある弁護士L2に電話で連絡をとった。L2は、「大変な状況ですね。少し込み入った事件ですので、関連する書類を持って一度事務所においでください。お待ちしています。」と述べ、通話を終了した。

以下は、弁護士L2と司法修習生Qとの間の会話である。
L2:Zの説明によると、XがZに対して保証債務の履行を求めて訴えを提起する可能性があります。その場合、Zとしては甲債権の存在を争うことになると思いますので、XのZに対する上記訴えに係る訴訟手続において、甲債権の存在を認めた前訴確定判決に基づく何らかの拘束力が作用するか否かが問題になります。そこで、この点を検討してください。これを「課題1」とします。
Q:承知しました。もっとも、Zとしては、Xに対して任意に保証債務を履行した上で、Yに対して求償することも考えられますね。
L2:そのとおりです。しかし、Yが求償に応じない場合には、ZはYに対して求償の訴えを提起する必要があります。そして、この場合、Yは、求償債務を否定するために甲債権の存在を争うことを考えるでしょう。
Q:そうすると、ここでも、甲債権の存在を認めた前訴確定判決の効力が問題になりますね。
L2:そうです。ただ、この場合は、前訴である本件訴訟の補助参加人が被参加人に対して前訴確定判決を援用するという珍しい構図になっており、このような援用が許されるか、という問題も含んでいそうです。そこで、このような問題があることに留意しつつ、ZのYに対する上記訴えに係る訴訟手続において、前訴確定判決の効力が作用するか否かについて検討してください。これを「課題2」とします。なお、「課題2」については、民事訴訟法第46条の効力以外の効力を検討する必要はありません。

〔設問3〕
あなたが司法修習生Qであるとして、L2から与えられた課題1及び課題2について答えなさい。

弁護士 井上正人
 この記事の著者・監修 弁護士 井上 正人(いのうえ まさと) 大阪弁護士会所属(登録番号:43449) /
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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