Q 裁判所が、相殺の抗弁について判断した場合の既判力の範囲について教えて下さい。
2026/08/30 更新
第1 設問1
1 事例
(1)XはYに対し350万円の支払いを請求する訴訟を提起した。
(2)これに対して、Yは、別の債権500万円を自働債権として相殺の抗弁を主張した
(3)裁判所は、相殺の抗弁について、自働債権500万円のうち150万円が弁済されているとして、350万円について存在すると判断して、Xの請求を棄却する判決を下した。
2 問題
上記の判決において、Yの自働債権についてどの範囲で既判力が及ぶか。
第2 回答
1 既判力
(1)そもそもは、既判力は、主文に包括するものに限り生じる(114条1項)のが原則である。したがって、相殺の主張を除いて(114条2項)、既判力は理由中の判断には及ばない 。
(2)しかし、被告が相殺の抗弁を主張し、その成否が裁判所に判断された場合、裁判所が自働債権を不存在としたその理由中の判断について「相殺をもって対抗した額」について既判力を有する。
2 あてはめ
(1)裁判所は、Yの自働債権500万円について、150万が弁済されている。350万円は自働債権として相殺で消滅した、と判断している。
(2)したがって、「相殺をもって対抗した額」つまり、350万円の消滅について既判力が及ぶ。
第2 問題2
1 事例
(1)上記の事案で、上記の訴訟を第1訴訟とする。
(2)YはXに対し、150万円を請求する第2訴訟を提起できるか。
5 信義則の問題
(1)既判力が及ばないとしても、第1訴訟では、裁判所は、Yの自働債権500万円について、450万が弁済されている。50万円は自働債権として相殺で全額消滅した、と判断されている。信義則によって、Yの請求は棄却されないのか。
(2)明示的一部請求の訴訟では、一部請求についてその額よりも低い金額以下の認定がされた場合、裁判所が請求額全額について認定したうえで、その金額が一部請求の金額以下になると判断している。つまり、実質的に残請求分を含めて存在しないことが審理されていることを理由として、残請求を信義則上許されないとして却下した。
(3)同じく考えると、Yは、第一訴訟にて、自働債権全額が存在しないと判断されている。よって、第2訴訟では、Yは、信義則上450万円が存在するとはいえず、Yの請求は却下される。
参考
使川原和彦 「読解 民事訴訟法」194頁以下
なお、平成29年度の予備試験で、全く同じ趣旨の問題が出題されている。




