民事訴訟

Q 何が主要事実ですか。

2026/10/29 更新

主要事実

(1)主要事実は、実体法上の権利の発生、変更、消滅を発生させる、法律上の要件(要件事実)に該当する具体的な事実です。

(2)以下の民法の主要事実は以下のとおりです。

過失と評価根拠事実

1 間接事実説
(1)民法709条の「過失」が主張事実であり、これを基礎づける具体的事実は間接事実である、とする考え方があります。

2 主要事実説
(1)民法709条の「過失」は法的評価である。これを基礎づける具体的事実が主要事実である、とする考え方があります。
(2)その根拠は、証拠より「過失」を認定することはできないこと、「過失」の主張だけでは何が審理の対象となっているか不明確であるから、過失を基礎づける具体的事実を審理の対象すべきあるからです。

3 両説のポイント
(1)例えば、後方より追突されたケースでは、相手方の過失の内容を具体的に主張することは限界がある。具体的な事実を主張事実であるとすると、当事者が前方不注意の過失を争っていたが、当事者がハンドル操作の当事者が主張していない場合に、裁判所が後者が真実であると考えても、この事実を認定できなくなるのは妥当でない、と考えれば、間接事実を採用することになります。交通事故ではこちらが妥当という見解もあります。(大島 眞一「〔改訂版〕交通事故事件の実務-裁判官の視点-」9頁以下)
(2)これに対して、「過失」の主張だけでは何が審理の対象となっているか不明確である、と考えれば、主要事実説を採用することになる。
 民事裁判の実務では、主要事実説にて運用されています。

参考
 田中豊「事実認定の考え方と実務〔第2版〕」40頁

黙示の意思表示

(1)黙示の意思表示についても、個々の個々の行動(発言)を主要事実とするのか、それとも、その行動によって読み取れる意思表示そのものを主要事実とするのか問題となる。
(2)例えば、妻が夫と一緒に自宅に住んでいたこと、夫が妻に感謝していたこと、夫が子供に自宅は妻のものとするとの発言したことをもって、自宅を妻に贈与した意思表示であると考える場合に、個々の行動(発言)を主張事実とするのか、それらによって表示される意思表示を主張事実とするのか問題となる。(岡口基一「要件事実マニュアル(第7版)第1巻 」201頁)

司法試験平成19年、令和7年で黙示の意思表示が出題されている。


留置権、同時履行の抗弁権(権利抗弁)

(1)同時履行の抗弁(民法533条)の権利主張がないのに、同時履行の抗弁権を認めるこことは、弁論主義違反である。
(2)留置権の抗弁を主張する(民法295条)には、①当該物によって生じた債権があること、②当該物を占有していること、③当該物が自分以外の所有物であること、④留置権を行為する、という権利主張が必要です。
(3)裁判所が権利抗弁を認定するには、当事者が権利行使を主張することが必要である。当事者がこれを主張していないのに裁判所がこれを認めることは弁論主義に反する。また、権利抗弁を主張するかは当事者の判断であるから、裁判所には、当事者に対し、権利抗弁を行使するかどうか確かめる義務はなく、これを確かめなかったとしても、釈明義務違反にもならない。
 留置権については、上記のように述べた判例があります(最判昭和27年11月27日民集6巻10号1062頁)

公序良俗違反

(1)民法90条の「公序良俗違反」は法的評価である。これを基礎づける具体的事実が主要事実です(主要事実説)。
(2)公序良俗違反に違反する権利とは反社会的な権利主張である。当事者が主張しないからといって、このような権利行使を認めることはできない。したがって、当事者のどちらかが、具体的な事実を主張していれば、民法90条違反の主張がなくても、裁判所は民法90条違反を認定できる(最判昭和36年4月27日民集15巻4号901頁)。
(3)もっとも、当事者にとっては、公序良俗違反に違反するかどうか、を反論する機会を与えなければ不意打ちとなる。したがって、弁論主義違反とならないが、釈明義務違反となるという考えが有力です。

代理

(1)当事者の主張していなくても、裁判所は代理による契約の成立を認定しても弁論主義に反しない(昭和33年7月8日民集12巻11号1740頁)。
(2)上記の判例に従えば、代理人については争いがなければ、当事者が主張していなくても認定してよいとする。例えば、会社等であれば、従業員が行った行為も会社に帰属させるなど、代理や使者の区別は判然とせず、争点になっていなければ、そのまま認定も問題ないという理屈も理解できるところがある。(長谷部由起子「基礎演習 民事訴訟法 第3版補訂版」87頁以下)
(3)もっとも、争いがないという理由で、当事者が主張していない事実を認定することは、当事者がその点について反論するかどうかの機会を奪うことになる。また、当事者の主張しない事実について、裁判所として認定できるか検討することが必要になれば、訴訟の遅延を招く。
(4)実務的には、この判例の結論に反対し、弁論主義違反となることから、裁判所が代理人としての事実認定の可能性について釈明すべきという考え方が主流である。(岡口基一「要件事実マニュアル(第7版)第1巻 1」232頁)

司法試験平成24年、平成29年度にて、「争いのない場合には、代理を認めても弁論主義に反しない。」という考え方の是非と問う問題が出題されている。


所有権

(1)所有権の取得事由や、所有権喪失事由についても、当事者が主張していない事実を認定することは弁論主義違反である。

(2)なお、所有権確認訴訟においては、所有権所得原因ごとに訴訟物を構成するのではなく、所有権の存否が訴訟物となり、所有権一切の存否について既判力が生じる。したがって、後訴訟にて、当事者が主張していない主張を追加して、前訴訟で確定した所有権の存否について争うことは許されない。

 田中豊「論点精解民事訴訟法 要件事実で学ぶ基本原理」9頁以下
 最判平成9年3月14日判時1600号89頁の解説として、上記の所有権の主張について整理がされている。

 

弁護士 井上正人
 この記事の著者・監修 弁護士 井上 正人(いのうえ まさと) 大阪弁護士会所属(登録番号:43449) /
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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