Q 訴訟上の相殺の抗弁に対し、訴訟上の相殺の再抗弁を提出することは許されるか。また、訴訟外の相殺について再抗弁として提出することは許されるのか。
2026/10/24 更新
訴訟上の相殺の抗弁
(1)訴訟上の相殺の抗弁は、当事者が口頭弁論または弁論準備手続においてする、自働債権と訴訟物となる請求権を相殺する旨の陳述をいう。
訴訟上の相殺は、実体法上の相殺の意思表示であるとともに、抗弁の提出です。
(2)相殺が認められると、被告は自働債権を喪失し、実質敗訴する。したがって、他の抗弁が認められない場合に、訴訟上の相殺は審理されるという順番が決まっている(勅使川原和彦「読解 民事訴訟法」200頁)。・・・①
訴訟上の相殺は、裁判所において判断されることを停止条件として実体法上の効力が生じる。(岡口基一「要件事実マニュアル(第7版)第1巻 」721頁)・・・②
(3)訴訟外で相殺を主張していた。これを訴訟で主張するのは、訴訟上の相殺に当たらない。この場合には、①②の性質は持たない。
最判平成10年4月30日民集52巻3号930頁
1 判決
(1)訴訟上の相殺の抗弁に対し訴訟上の相殺の再抗弁を主張することは許されない。
(2)しかし、相殺の意思表示が訴訟外でされた場合には、相殺の再抗弁を主張することは許される。」としている。
2 解説
(1)訴訟上の相殺の抗弁については、他の抗弁が認められない場合に、訴訟上の相殺は審理されるという審理の順番が決まっている。
また、訴訟上の相殺は、裁判所において判断されることを停止条件として実体法上の効力が生じる。
これを受けて、最判平成10年は、「訴訟上の相殺の抗弁に対し訴訟上の相殺の再抗弁を主張する」ことを認めると①審理されるかどうか、不確定な争点が増えていくこと(訴訟上の問題)や、②実体法上の効力が生じるかも不明確になることを問題にしている。
(2)他方、訴訟外の相殺については、確定的に相殺の効力が生じ法律関係の不安定さの問題は生じないから、相殺の意思表示が訴訟外でされた場合には、相殺の再抗弁を主張することは許される、と理解している。
参考
民事訴訟法判例百選(第6版)150頁。
| 訴訟上の相殺の抗弁に対し、訴訟外の相殺を再抗弁として提出することが許されることは、旧司法試験の平成16年度の第2問、司法試験令和5年で出題されている。 |
訴訟外の相殺による再抗弁
1 判例
訴訟上の相殺の抗弁に対し、訴訟外の相殺による再抗弁の提出した最高裁判例はありません。しかし、下級審の判断ではこれを認めたものがあります(判例タイムズ1543号150頁)。
2 相殺の抗弁と相殺の再抗弁の優劣
訴訟外の相殺による再抗弁の提出が認められるとして、相殺の抗弁と相殺の再抗弁についてその優劣を決する必要が出てきます。
名古屋地判令和7年6月19日判例タイムズ1543号150頁
(1)訴訟上の相殺の抗弁に対し、訴訟外の相殺について再抗弁することは許されます。
(2)相殺の意思表示はその意思表示の到達したときから確定的にその効力が発生することから、意思表示の前後によって、その優劣を決することになります。
相殺の抗弁の自働債権について、(相殺の抗弁が提出されたときより先に)訴訟外で相殺の意思表示をしていれば、その訴訟外の相殺について再抗弁を提出できます。




