判例(内定前にバックグラウンドチェックをすることが可能であったこと、経歴詐称があるともいえないことから、内定後に行ったバックグラウンドチェックで判明した事実を理由とする内定取り消しは無効とされた。)
2026/05/17 更新
1 事実関係
平成28年11月14日、Xは応募書類を提出した。
平成28年12月2日、会社Yは、採用の内定を出した
入社日 平成29年1月1日
期間の定め 期限の定め無し
給与額 月給35万円
内定通知には、経歴調査の結果によっては内定を取り消す可能性があると記載がされていた。
平成28年12月14日、懇親会のやりとりで、会社YはXの能力に疑問を抱き、人材会社にバックグラウンドチェックをしたのか問い合わせた。会社Yは、人材会社がバックグラウンドチェックをしているものと誤解していた。
平成28年12月27日、会社はYはXから、バックグラウンドチェックをする旨の同意書を取得した。
調査結果によれば、A社からは、「職務能力については、18年も勤務しながら、一般社員に終始したことから、スキルがどの程度かは推察してほしい、」と記載されていた。
B社からは、「業界のキャリアは長いがスキル不足である。」「当社が求めるレベルではなく戦力外と判断し、契約を打ち切った。」とした。
平成29年1月11日、Y社は内定を取り消した。
平成29年1月16日、Y社は月給25万8000円で再提案した。
2 裁判所の判断
(1)内定取消が認められるには、①内定当時、知らず、かつ、知ることができない事情であることと、②その事実が、会社が期待していた労働者の資質、能力を欠くか、相互の信頼を大きく損なうものであることが必要です。
(2)バックグラウドチェックの調査結果は、本人の業務実績を否定するものではなく、Xの面接での説明が虚偽だとは認められない。
(3)バックグラウドチェックの調査結果は、会社Yが内定前に同調査を調査すれば、容易に知りえるものではなかった。
(4)したがって、会社Yの内定取消しは違法です。
東京地判令和元年8月7日 判例タイムズ1478号
解説
1 内定取消しの要件
判例は、「上記解約権の行使は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、 これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨,目的に照らして 客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られるものと解することが相当である。 そうすると、本件では、バックグラウ ンドチェックを含む経歴調査により、単に、履歴書等の書類に虚偽の事実を記載 しあるいは真実を秘匿した事実が判明したのみならず、その結果、労働力の資質 能力を客観的合理的に見て誤認し、企業の秩序維持に支障をきたすおそれがある ものとされたとき、または、企業の運営にあたり円滑な人間関係,相互信頼関係を 維持できる性格を欠いていて企業内にとどめおくことができないほどの不正義性 が認められる場合に限り、上記解約権の 行使として有効なものと解すべきである。」と述べている。
(2)つまり、内定取消が認められるには、①内定当時、知らず、かつ、知ることができない事情であることと、②その事実が、会社が期待していた労働者の資質、能力を欠くか、相互の信頼を大きく損なうものであることが必要としています。
2 内定取消の検討
(1)まずは、本件の経歴詐称が、内定当時、知らず、かつ、知ることができない事情であるか、問題となります。
(2)次に、①詐称した経歴の内容、詐称の程度、②詐称の動機、③企業が期待していた労働者の能力と、④詐称による影響の大きさを考慮して、内定取り消しの有効無効を判断しています。
(3)本件では、Xの面接での説明が虚偽だとは認められない、とされており、内定取消しが当然に無効となることになります。
参考
ビジネスガイド2026年6月号87頁以下






