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予防法務

先行する株主総会は(定款に定める)定足数が足らなかった。先行する株主総会の決議によって、定款が変更されて定足数が変更になった。変更後の定足数を前提に、後行する株主総会が開かれた。後行の株主総会は「決議の方法が著しく不当」といえるか。

2024/09/06 更新

事例

(1)令和1年、株主総会の決議によって、定款が変更されて定足数が「過半数」から「3分の1以上」となった。

 このときの株主総会では、定足数が足りなかった。

(2)令和2年、株主総会の決議によって、株式の併合を行う旨の決議がされた。

 このときの株主総会は、変更後の定足数を前提に決議がされた。

(3)株主Aは、意図的に決議の方法が法令・定款に違反することを知りながら、令和1年の株主総会の決議を行った。

 令和1年の株主総会において、株主Aは、他の株主が株主総会に出席することが事実上困難となるように、開催日の直前に受領させるべく、議題の記載のない招集通知を送った。

(4)株主Aは、令和1年の株主総会によって、単独で株主総会の決議が行える状況を作ったうえで、令和2年の株主総会の決議を行った。

(5)他の株主Bは、令和2年の株主総会の決議は、「決議の方法が著しく不当であるとき」にあたる。したがって、同決議は取り消されるべきであるとの訴えを提起しました。

 なお、このときには、令和1年の株主総会(の決議)から3ヶ月以上が経過していました。

判決

(1)令和2年の株主総会の決議は、「決議の方法が著しく不当であるとき」にあたる(会社法831条1項1号)。

(2)令和2年の株主総会の決議は取り消される。

令和5年9月28日東京高裁

判例タイムズ1522号123頁

株主総会の取消事由(招集手続・決議の著しく不当)

(1)「株主総会の招集手続または決議の方法が著しく不当であるとき」には、株主総会の取り消しを請求できます(会社法831条1項1号)。

(2)「株主総会の招集手続または決議の方法が著しく不当であるとき」は法令違反はないが、全体的にみて、著しく不公正なときを意味します。

(3)上記訴えを提起できるのは、株主総会(の決議)の3ヶ月以内です。

(4)株主総会の取消し事由があっても、株主総会の内容ではなく、①その手続の違法にすぎず、②違法が重大ではなく、③決議の影響を及ぼさないときには、取り消しの訴えが認められないときがあります(会社法831条2項)。

(5)なお、定款の定める定足数を満たしていなかった場合(最判昭35.3.15集民40号367頁)ことは、「株主総会の招集手続または決議の方法が著しく不当であるとき」にあたります。

解説 令和1年の株主総会

(1)令和1年の株主総会の決議によって、定款が変更されて定足数が「過半数」から「3分の1以上」となりました。

(2)令和1年の株主総会の決議について、定足数を欠いていました。「定款の定める定足数を満たしていなかったこと(最判昭35.3.15集民40号367頁)」は、「株主総会の決議の方法が著しく不当であるとき」にあたります。

(3)しかし、上記訴えを提起できるのは、株主総会(の決議)の3ヶ月以内です。したがって、令和1年の株主総会については、取り消しを求めることはできません。

解説 令和2年の株主総会

(1)令和1年の株主総会の決議については、「株主総会の決議の方法が著しく不当であるとき」にあたります。

(2)令和1年の株主総会の決議によって改定された定足数を前提とする令和2年の株主総会の決議について、「株主総会の招集手続または決議の方法が著しく不当であるとき」にあたるでしょうか。

(3)判決は、2つの株主総会について、株主Aが他の株主を排除する目的で行った一連の手続きであることを重視して、和2年の株主総会の決議について、「株主総会の招集手続または決議の方法が著しく不当であるとき」にあたると認定しましました。

(4)なお、判決は、先行する令和1年の株主総会決議の瑕疵をもって、令和2年の株主総会について、「株主総会の決議の方法が著しく不当であるとき」と認めたものではありません。判決は、2つの株主総会について、株主Aが他の株主を排除する目的で行った一連の手続きであることを重視して、令和2年の株主総会について、「株主総会の決議の方法が著しく不当であるとき」にあたると認めたものです。

参考

 判例タイムズ1522号123頁

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