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予防法務

判例(役員報酬について、株主総会がない場合)

2024/11/02 更新

事実関係

(1)平成24年8月、会社の創業者のAは死亡した。
   XとYは、Aの子供であり、Aの死亡後は二人の持ち分を合わせると会社の100%株主となった。
(2)Yは会社の代表取締役に就任し、平成24年6月当時、Yの役員報酬は45万円(月額)だった。
(3)平成24年7月、Yは役員報酬を80万円(月額)に変更した。
   Yは役員報酬をアップさせることを説明し、Xは異議を述べずに、これに関する書類に押印している。
(4)平成27年7月、Yは役員報酬を120万円(月額)に変更した。
 この報酬アップについて、株主総会決議や全株主の同意は存在しなかった。
(5)Xは会社の株主として、Yが違法に役員報酬を取得して会社に損害を与えたとして、株主代表訴訟を提起した。

判決

(1)地裁(福岡地裁令和5年2月22日)は以下の判決をして、高裁は控訴を棄却して、同様の判決をした。
(2)平成27年7月の役員報酬のアップは、株主総会決議や全株主の同意を推定する事実がなく違法となる。80万円(月額)への報酬は合法であるから、差額40万円(月額)について、毎月会社に損害を与えた、と判断された。
(3)株主代表訴訟において、会社への損害賠償を求める場合にも、弁護士費用は会社の損害と認められない

福岡高等裁判所 令和5年7月20日判決
福岡地裁    令和5年2月22日判決

役員報酬と、株主総会決議や全株主の同意

(1)会社法361条1項は、お手盛り(取締役が自分で報酬を決めれるとすると不当に高額な報酬を決めてしまう危険性)を防止するために、取締役の報酬については、定款又は株主総会の決議で定めることが必要とされています。
(2)株主総会決議がなくても、全株主の同意があれば、取締役の報酬報酬の支払いは適法となります(最高裁昭和46年6月24日民集25巻4号596頁)。
(3)中小企業の場合には、適法に株主総会を開いていることは少なく、全株主の同意(全株主の同意を推定する事実)があるかどうか、問題となります。
(4)株主が、役員の報酬について知りながら特に異議を留めず、役員に会社の業務を任せている場合には、同意が推定されます。
 また、役員が報酬を勝手にアップさせながら、他の株主に連絡しなかった場合や、他の株主が反対している場合には、全株主の同意(全株主の同意を推定する事実)は推定されないでしょう。
(3)本判決は、従前の考え方どおりの判決となります。

株主代表訴訟と、弁護士費用

(1) 株主代表訴訟の弁護士費用を負担するのは株主です。株主は勝訴した場合に会社に対し相当額を請求できます。(会社法852条1項)。
(2) 株主代表訴訟の弁護士費用を負担するのは株主です。株主代表訴訟において、会社への損害賠償を求める場合にも、弁護士費用は会社の損害と認められない、とされれています。
(3)本判決は、上記の考え方どおりの判決となります。

会社法第852条 (費用等の請求)
1項 責任追及等の訴えを提起した株主等が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において、当該責任追及等の訴えに係る訴訟に関し、必要な費用(訴訟費用を除く。)を支出したとき又は弁護士、弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人に報酬を支払うべきときは、当該株式会社等に対し、その費用の額の範囲内又はその報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる。
2項 責任追及等の訴えを提起した株主等が敗訴した場合であっても、悪意があったときを除き、当該株主等は、当該株式会社等に対し、これによって生じた損害を賠償する義務を負わない。
3項 前二項の規定は、第八百四十九条第一項の規定により同項の訴訟に参加した株主等について準用する。

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