大企業がスタートアップと提携する方法
2025/02/09 更新
大企業の文化と、スタートアップの文化は矛盾する
1 大企業の文化
(1)既存の事業を運営するうえでは、利益がでておりその維持が優先されます。その結果、その綿密な計画と管理が重視され、品質の維持が重視されます。
(2)過去の成功体験を経験となっており、新しい挑戦を受け入れられません。現状維持バイアス(リスクを取るよりも現状維持を望んでしまう心理。)、損失回避のバイアス(100円を得することより、100円の損失を嫌う心理。)が働いています。利害関係者が多数おり、リスクをとるような挑戦をするだけの根拠を集めるためにコストがかかるだけでなく、反対者が一人でもいれば、リスクある選択ができません。
2 スタートアップの文化
(1)スタートアップは、大きな野望(リターン)を狙い、そのために、リスクを受け入れる決断を行う必要があります。
スタートアップは、約束したリターンに向けて順調に成長していると判断してもらえる限りは、ベンチャーキャピタル(VC)の支援を受けて活動する存在です。
スタートアップでは利益は重視されません。スタートアップでは、市場での成長余地があること(それに向かって順調に成長していこと)(これを示す数字)を大切にされます。
(2)スタートアップには、人、物、金がありません。スタートアップでは、全ての顧客の満足を得る商品ではなく、狙った顧客が求める機能に集中投資をします。あればよい機能を定義し、その機能を削ぎ落とします。多数人が求める妥協的な商品ではなく、特定の顧客にターゲットに絞った商品開発を行います。
(3)スタートアップでは、いろいろなアイデアを試してみて、上手く行きそうな指標がでたプロジェクトに集中投資することになります。これが見つかるまで時間がかかります。売上新規事業の開発では、心配を恐れずに新しいことに挑戦するマインドが重視されます。新規事業では、適切なアイデアが生み出される環境を作り、新しいプロジェクトを遂行し、その結果を正確に測定し、ブロジェクトの変更、中断をスピディーに判断することが求められます。
3 スタートアップとの距離感
(1)大企業がスタートアップを支援するとしても、その距離感が大切です。
(2)大企業がスタートアップを買収しても上手く行かないことが多いです。大企業が親会社として振る舞うと、スタートアップは最悪、活動できなくなります。
(3)例えば、リアル店舗型のビデオ事業の大手企業が、インターネットでのレンタルビデオ事業に投資することができたとしても、その新規事業の成長が、自社事業の売り上げを毀損するおそれもあります(カニバリゼーション)。
そもそも、大企業はシナジー等を期待して、自社の事業と近い分野のスタートアップに投資しがちです。したがって、このようなことが起きてしまいます。
(4)スタートアップの自主性を損なわない工夫が必要です。
スタートアップと取引する(広く浅く支援する)。
(1)大企業はスタートアップに対し広く浅く、支援するべきです。
(2)支援の方法は投資に限りません。大企業としてスタートアップと少額の取引するだけでもよいのです。
(3)スタートアップの場合には、信用がありません。したがって、大企業と取引ができたというだけでも、スタートアップとしては取引実績となりますので、メリットがあります。
(4)まずは、いろいろなスタートアップと接点を持ちましょう。
スタートアップと交流する。
1 スタートアップと交流する
(1)スタートアップのマインド、技術について学ぶことが多く、スタートアップとの交流を通じて社内起業家を養成しましょう。
(2)企業内に専門部門を作って、積極的に交流しましょう。
2 企業内に専門部門を作る。
(1)大企業内に、新規事業部門を作りましょう。
(2)大企業の文化と、スタートアップの文化は異なります。スタートアップとの交流をするのであれば、特別の部門を作ったほうがよいでしょう。
(3)専門部門の活動には、経営者が深く関与することが必要です。
専門部門の担当者が、事業部門に協力を依頼しても、協力を得られることは難しいでしょう。なぜなら、事業部門にとっては、通常の仕事にプラスして、スタートアップ関連の仕事が増えることになるからです。
例えば、会社の役員が担当の事業部門のマネージャーに電話して、「◯◯の件をよろしく頼む。」と電話等でお願いすること等が大切です。
3 スタートアップとの様々な交流
専門部門が手動して、以下のような活動を行いましょう。
◯人事交流(スタートアップの人事を受け入れたり、逆に、社員を出向させて、ベンチャー経営を勉強させる。)
◯共同開発(スタートアップのニーズを聞いて、大企業の事業部門に依頼して、自社の技術を提供したり、人材を提供したりできないか)の橋渡しをする。
◯スタートアップの最新技術の活用(大企業の事業部門にニーズを聞いて、スタートアップに声をかけて、そのスタートアップの技術で課題を解決できないか、を検討する)
スタートアップに投資する。
1 売上の拡大と顧客の増加
(1)スタートアップの商品の販売がスタートし、問い合わせが増え、売上が少しずつ増えてきます。
(2)顧客が関心を持ち、爆発的に問い合わせと売り上げが増えます。
(3)スタートアップとしては、爆発的に増えたニーズに対応するために組織の拡大が必要になります。投資家は有望なスタートアップに対し注目度が集まります。
(4)企業として、スタートアップに投資をする場合には、スタートアップ独特のリスクを考慮しつつ、投資を検討します。
2 キャズムの谷
(1)スタートアップの売上が増加しても、これが続くとは限りません。これが、キャズムの谷です。
(2)スタートアップの商品については、新しい物好きな人(イノベーター)が購入をはじめます。
(3)次に、ビジョナリー(アーリー・アドプター)が、他人又は他社との差別化のために、新しい商品を購入します。
(4)その次に、アーリー・マジョリティー(実利主義者)が商品の購入をします。この(2)と(3)の顧客層の差がキャズムの谷です。
3 キャズムの谷の強さ
(1)ビジョナリー(アーリー・アドプター)は、他人又は他社との差別化のために、新しい商品を購入します。ビジョナリー(アーリー・アドプター)は、エネルギッシュで、権原やお金を持っています(社長、経営者が多いです)。
(2)これに対して、アーリー・マジョリティー(実利主義者)は、「良い商品であれば買う。」と考えます。アーリー・マジョリティー(実利主義者)は商品は完成されている事が必要です。性能よりも信頼を重視します。商品の使い方、カスタマイズなどのフォローも求めます。
(3)ビジョナリー(アーリー・アドプター)への販売によって、売上が増えてきます。しかし、ビジョナリー(アーリー・アドプター)の数がゼロになれば、売上がピタリと止まってしまいます。
右肩上がりだった会社ですが、キャズムにくると、突然、売上がゼロになります。
(4)アーリー・マジョリティー(実利主義者)向けの販売をするために、商品開発、サポート体制、マーケティングのやり直しが必要です。
4 関与の強化として投資判断をする。
(1)スタートアップが規模拡大のタイミングで投資を要求された場合には、大企業としては、単純なリターンだけではなく、そのスタートアップとの関係を強化したいか、という観点で考えるべきです。
(2)単純な投資先として見た場合、ベンチャーキャピタル(VC)でもない、いち企業が投資判断の適性を判断することは困難です。
(3)したがって、大企業としては、人事交流等を通じてスタートアップを理解し、応援したいと考えるスタートアップに対し、関係強化の観点から投資をするべきです。。
スタートアップの自主性を尊重する。
1 投資の際の注意点
(1)大企業としては、シナジーを期待してスタートアップに投資をしています。しかし、これを重視し、スタートアップに意見を求めることは自粛すべきです。
(2)大企業としては、投資をして人を出向させるかもしれませんが、スタートアップの意思決定の文化には配慮をすべきです。
(3)M&A等で、スタートアップを買収したとしても、スタートアップの自主性を損なわない工夫が必要です。
2 起業家に任せる
(1)大企業はスタートアップに出資をしたとしても、スタートアップの自主性は尊重すべきです。
(2)スタートアップの経営は、起業家に任せるべきです。
2 意思決定スピードを守る。
(1)スタートアップの意思決定はスピードが必要です。
(2)仮に、スタートアップの重大な意思決定について報告を求めるにしても、負担のならないように配慮をするべきです。
3 意思決定に口を挟まない。
(1)スタートアップでは、折衷的な意見ではなく、とがった意見が大切です。
例えば、スタートアップには、人、物、金がありません。スタートアップでは、全ての顧客の満足を得る商品ではなく、狙った顧客が求める機能に集中投資をします。あればよい機能を定義し、その機能を削ぎ落とします。多数人が求める妥協的な商品ではなく、特定の顧客にターゲットに絞った商品開発を行います。
(2)しかし、多数人での議論し、これをまとめる形で結論を出すと、全ての機能に平等に投資することになりかねません。
無意識に、大企業での文化を強要しないように工夫が必要です。
4 シナジーを重視しない
(1)大企業はシナジー等を期待してスタートアップに投資します。
(2)しかし、スタートアップでは、適切なアイデアが生み出される環境を作り、新しいプロジェクトを遂行し、その結果を正確に測定し、ブロジェクトの変更、中断をスピディーに判断することが求められます。
(3)シナジーを重視すると、さまざまな調整が必要になってしまい、スタートアップの意思決定スピードを大きく損なうからです。
5 経営陣を関与される
(1)スタートアップとの協業プロジェクトには、経営者が深く関与することが必要です。
(2)大企業の文化と、スタートアップの文化は衝突しがちです。衝突のタイミングで、経営者に連絡が行き、素早く判断して解決する、という仕組みが必要です。
(3)問題については、すぐに経営者に報告がされることと、経営者が時間を割いてその解決をすることが必要です。
参考
ハーバード・ビジネス・レビュー2025年3月号34頁