【固定残業代と主張】「固定残業の労働時間が長時間に及ぶので公序良俗違反である。」との主張は、適切ではない。
2023/08/02 更新
固定残業の労働時間が長時間(例えば、80時間)に及ぶこと
(1)従業員側の弁護士より、「固定残業の労働時間が長時間(例えば、80時間)に及ぶから、固定残業代は公序良俗違反となって無効である。」という主張がされることがあります。
(2)しかし、公序良俗違反は基本的に問題になりません。
長時間労働であるとしても、労働者は会社に対し労基法37条の残業代を請求できます。したがって、長時間労働になることは、残業代としての性質を否定する根拠とはなりえないからです。
(3)もっとも、固定残業の労働時間が80時間に及ぶものとなっている場合には、基礎賃金が極めて低額となっている(最低賃金に近い場合)ケース、固定残業代の金額が基礎賃金を比して極めて大きいケースがほとんどです。
固定残業が残業代の支払いとして認められるためには、①基本給と残業代の区分けが明確であること(判別要件・明確区分性)、②当該手当が残業代として支払われているとの合意(対価性)が必要です。
上記のようなケースでは、①②の要件を満たすかどうかで判断されるべきであり、公序良俗違反の適用を検討する余地は原則無いとされます。
(4)また、固定残業の労働時間が80時間に及ぶものとなった経緯について、会社と従業員の交渉の経緯や実際の労働環境を検討したうえで、長時間労働時間を会社が強制していると認定できる例外的なケースについては、公序良俗違反を理由として、固定残業代が否定されることも理論上ありえるとされます。
参考
判例タイムズ1509号の41頁