【固定残業代の主張】歩合給の計算式で計算された額を残業代として支払うこと
2024/02/18 更新
固定残業代の要件
固定残業が残業代の支払いとして認められるためには、①基本給と残業代の区分けが明確であること(判別要件・明確区分性)、②当該手当が残業代として支払われているとの合意(対価性)が必要です。
私見
(1)①と②について、私見ですが、(ア)手当の計算式が明確に決まっており、(イ)従業員がその手当の計算方法を知っていること(知ることができた状態あったこと)が必要です。
(2)加えて、(ウ)当該手当が設計として、「ざっくり計算で残業代を支払ったもの」と評価されうるのか、それとも、「別の名目の手当(例えば、歩合給)を残業代の名目で支払っただけ」と評価されるのか、で判断されます。
固定残業代について、歩合給の方法で計算する場合
(1)最判平成29年2月28日(民集255号1頁、判タ1436号85頁)は、「固定残業代について、歩合給の方法で計算された金額である、という事情をだけで、残業代の支払いにあたることは否定されない。」と判断しました。
しかし、歩合給の計算式で計算された額を残業代として支払うのであれば、「同手当が歩合給について支払名目を変えたものである。」という批判を避けて、「残業代の支払いである。」と評価するだけの事情が必要になります。
(2)①運送業では、ドライバーが外に出てしまうと、出庫時間と帰庫時間は把握できますが、その間に何時間休憩したのか不明です。そこで、売り上げ等を利用して、簡単に時間外労働手当を算定する合理性はあります。
(3)私見としては、①に加えて、②「残業代の支払いである。」と評価するだけの事情が必要になるでしょう。
「残業代の支払いである。」と評価するだけの事情
(1)「残業代の支払いである。」と評価するだけの事情としては、以下のような事情が考えられます。
①労働組合等との交渉において、残業代の支払いに代えて、同手当が導入された場合(大阪高判令和3年2月25日)
②「短時間で業務を終わらせるために時間単価で計算しない。しかし、時間外労働の手当として支給する」ことについて社会保険労士に依頼して説明会を実施していた場合(東京地判平成31年1月23日)
③残業代の計算を、労働時間の概算で計算すること(私見)。
(2)歩合給方式での計算を、労働時間の概算で計算することとはどんな意味でしょうか。
まず、(ア)残業代の計算方式を、ルート数×ルート単価で計算します。
次に、(イ)ルート単価を、「(予想される労働時間-8時間)×時間単価×1.25(もしくは0.25)」で計算し、その計算式を従業員に周知します。この計算式があれば、同手当の趣旨が残業代の支払いであることが明確になります。
参考
判例タイムズ1509号46頁