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残業代の計算

【業場外みなし労働時間制】判例(ITの導入によって、営業職の業場外みなし労働時間制が否定された判例)

2024/07/17 更新

事業場外みなし労働時間制

(1)事業場外労働のみなし労働時間制は、社員が①事業場外で仕事をし、②労働時間の把握が困難である場合には、社員の過半数代表との間で合理的な労働時間を合意すれば、その時間労働したものとして残業代等を計算する制度です(労働基準38条の2の1項)。
(2)同制度が適用されるには、②労働時間の把握が困難であることが必要です。したがって、会社が、IT機器等を使って労働時間を把握可能であれば、事業場外労働のみなし労働時間制の適用はありません。
(3)仮に、事業場外労働のみなし労働時間制の適用がない場合には、実際にかかった労働時間を計算することになります。労働時間の把握が困難であれば、何らかの方法で労働時間を推認して合理的な時間を認定していくしかありません。

東京高裁令和4年11月16日判例

 以下の事例でITの導入によって、営業職の業場外みなし労働時間制が否定されました。

1 時系列
 平成29年    社員Xは、MR(営業職)として入社した。
 平成30年2月   月40時間分の時間外割増賃金として固定残業代を導入した。
 平成30年12   スマホ等を利用した勤怠管理ソフトを導入した。
 令和1年11月   事業場外みなし労働時間制を導入した。

2 労務管理
(1)エクセルに、営業先と内容を記載させて一週間単位で報告させていた。
(2)ススマホ等を利用した勤怠管理ソフトを導入し、始業時間、終業時間が打刻させていた。
(3)残業時間が 月40時間を超えそうな場合には、事前に残業の必要性と時間を申告させて、エリアマネジャーからMR(営業職)に具体的な指示をしていた(残業申請制度を運用していた)。
(4)スマホ等を利用した勤怠管理ソフトを導入後は、エクセルに業務内容をもう少し詳しく記載させていれば、労働時間や休憩時間の把握が可能であった。

3 結論 

 会社が、IT機器等を使って労働時間を把握可能であったとして、、事業場外労働のみなし労働時間制の適用が否定された。

参考

 ビジネスガイド2023年5月号34頁以下

 ビジネスガイド2024年1月号88頁以下

解説

1 労働時間の算定が困難であること
(1) 事業場外見なし労働時間制を適用するには、②その社員の労働時間の算定が困難であることが必要です。しかし、本判決は「会社は、IT機器等を使って労働時間を把握可能であり、事業場外労働のみなし労働時間制の適用がない。」とした判例です。
(2) では、会社は、IT機器を導入しなければよかったのでしょうか。
 事業場外労働のみなし労働時間制は、社員と合意に基づいて、実際にかかる労働時間を推認する制度です。仮に、事業場外労働のみなし労働時間制の適用がない場合には、実際にかかった労働時間を計算することになります。しかし、労働時間の把握が困難であれば、何らかの方法で労働時間を推認して合理的な時間を認定していくしかありません。
 この場合に計算される労働時間と、社員と合意した労働時間はおおよそ同じであるはずです。あくまでも、事業場外労働のみなし労働時間制は、社員と合意に基づいて、実際にかかる労働時間を推認する制度です。
  IT機器等を導入して、実際の労働時間を把握しておくことが、本来的な(残業時間を含めた)人件費の把握ということでリスクを下げることに繋がります。
(3)適切な、「事業場外みなし労働時間制」では、可能な限り労働時間を把握に努めます。そして、労使協定の際に、業務の実態を反映して合理的な労働時間が決めていくべきです。仮に、事業場外労働のみなし労働時間制の適用がない場合には、実際にかかった労働時間を計算することになります。この場合に計算される労働時間と、社員と合意した労働時間はおおよそ同じであるはずです。

2 固定残業代
(1)事業場外みなし労働時間制ではなく、固定残業代としての有効性を考慮するという考え方もありえます。
 法律上の「時間外割増賃金」は、法律上の最低限の支払基準を定めたものです。したがって、当事者において、「同手当について、時間外割増賃金として支払う。」旨の合意が成立すれば、同手当を固定残業代として支払ったと解釈する余地があります。
(2)月40時間分の時間外労働を前提に、事業場外みなし労働時間制を導入するのであれば、「月40時間分の時間外割増賃金として固定残業代を支払う。」ことも選択肢に入ります。
 具体的には、労働時間の管理をして、月40時間を超えればその超過分を支払うという運用をしていくというものです。

3 営業職と成果主義
(1)営業職の場合には、労働時間が長ければ成績があがるわけではありません。したがって、会社としては、労働時間ではなく、成果に基づいて賃金を支払いたいというニーズがあるのも事実です。
 そのため、労働時間を直接反映させる賃金体系ではなく、業場外みなし労働時間制もしくは、固定残業代制を利用することになるでしょう。
(2)また、営業成績を反映して毎年、基本給を決まるように設計をし、年棒制を採用した方がよいでしょう。なお、年棒制を採用する場合には、成績と年俸がどのように決まるのか基準を作成し、その基準を労使間で合意しておくことが必要です。

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