【裁量労働制】企画型裁量労働制(裁量労働のみなし労働時間制)
2024/02/18 更新
企画型裁量労働制の概略
企画型裁量労働制(裁量労働のみなし労働時間制)は、一定の職種について、①労働委員会の決議によって合理的な労働時間を決定すること、②該当労働者と裁量労働制を適用することを合意することで、その時間労働したものとして残業代等を計算する制度です(労働基準38条の4の1項)。
企画型裁量労働制の要件
(1)企画型裁量労働制を適用するには、以下のを満たす必要があります。
①裁量労働の対象業務にあたること。
②上記の業務が存在する事業場での業務であること。
③対象労働者が、「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」であり、対象業務に状態として従事していること。
例えば、大学の学部を卒業した者であってまったく職務経験がない者は少なくとも3年ないし5年程度の職務経験を経たうえで、初めてこれに当たるか否かの判断の対象となりえます(平11・12・27労告149号、平15・10・22労厚告353号第3の2)。
④該当労働者と裁量労働制を適用することについて合意すること
⑤労使委員会の決議があること。
(2)加えて、⑥労使委員会の決議を労働基準監督署に届け出ていることが必要です。
参考
佐々木宗啓ほか「類型別 労働関係訴訟の実務〔改訂版〕I 」247頁
裁量労働時間制の対象業務
企画型
告示(平成11年12月27日労働省告示第149号、平成15年10月22日厚生労働省告示第353号大の1(2)ロ)では、企画型裁量労時間制の対象業務について、対象業務となり得る例、なり得ない例につい、説明されています。 企画型裁量労働時間制の「対象業務となり得る例」 ① 経営企画を担当する部署における業務のうち、経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務 ② 経営企画を担当する部署における業務のうち、現行の社内組織の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな社内組織を編成する業務 ③ 人事・労務を担当する部署における業務のうち、現行の人事制度の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな人事制度を策定する業務 ④ 人事・労務を担当する部署における業務のうち、業務の内容やその遂行のために必要とされる能力等について調査及び分析を行い、社員の教育・研修計画を策定する業務 ⑤ 財務・経理を担当する部署における業務のうち、財務状態等について調査及び分析を行い、財務に関する計画を策定する業務 ⑥ 広報を担当する部署における業務のうち、効果的な広報手法等について調査及び分析を行い、広報を企画・立案する業務 ⑦ 営業に関する企画を担当する部署における業務のうち、営業成績や営業活動上の問題点等について調査及び分析を行い、企業全体の営業方針や取り扱う商品ごとの全社的な営業に関する計画を策定する業務 ⑧ 生産に関する企画を担当する部署における業務のうち、生産効率や原材料等に係る市場の動向等について調査及び分析を行い、原材料等の調達計画も含め全社的な生産計画を策定する業務 企画型裁量労働時間制の「対象業務となり得ない例」 ① 経営に関する会議の庶務等の業務 ② 人事記録の作成及び保管、給与の計算及び支払、各種保険の加入及び脱退、採用・研修の実施等の業務 ③ 金銭の出納、財務諸表・会計帳簿の作成及び保管、租税の申告及び納付、予算・決算に係る計算等の業務 ④ 広報誌の原稿の校正等の業務 ⑤ 個別の営業活動の業務 ⑥ 個別の製造等の作業、物品の買い付け等の業務 |
労使委員会の決議があること
(1)企画型裁量労働制(裁量労働のみなし労働時間制)の適用には、労使委員会の決議が必要です。
(2)労働委員委員会は以下の要件が必要です。
①適切な方法で、委員が選任されていること、
②委員の半数については、過半数労働組合がある場合には過半数労働組合が、過半数労働組合
がない場合には過半数代表者が任期を定めて指名した者であること。
協議事項と決定事項
(1)企画型裁量労働制を適用するために、労使委員会にて以下の決議をする必要があります。
(2)同決議については、委員の5分の4以上の多数による議決に基づく決議が必要です。
専門型裁量労働制(労使協定) | 企画型裁量労働制(労働委員会の決議) |
対象業務 | 対象業務 |
当該業務の遂行方法や時間配分について具体的な指示をしないこと | 対象労働者の範囲 |
みなし労働時間(合理的な労働時間) | みなし労働時間(合理的な労働時間) |
健康・福祉確保措置(・・・①) | 健康・福祉確保措置(・・・①) |
苦情処理処理措置(・・・②) | 苦情処理処理措置 |
裁量労働制の適用には本人の同意がいることと、同意をしなかった場合に不利益に取り扱わないこと 同意した場合に、同意の撤回の手続(・・・③) | 裁量労働制の適用には本人の同意がいることと、同意をしなかった場合に不利益に取り扱わないこと 同意した場合に、同意の撤回の手続 |
労使協定の有効期間 | 決議の有効期間 |
以下を記録すること 労働時間の状況 健康・福祉確保措置(・・・①)の実施状況 苦情処理処理措置(・・・②)の実施状況 労働者の同意・その撤回(・・・③) | 以下を記録すること 労働時間の状況 健康・福祉確保措置(・・・①)の実施状況 苦情処理処理措置(・・・②)の実施状況 労働者の同意・その撤回(・・・③) |
対象労働者に適用される評価制度・これに対応する賃金を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明をすること |
参考
ビジネスガイド2024年2月号6頁
裁量労働制の効果
実際の労働時間が、労使協定の労働時間を超えても、協定に定められた時間を越えた分の時間外割増賃金は発生しません。
労働基準法38条の4 企画型裁量労働制 1項 賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第三号に掲げる時間労働したものとみなす。 一 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であつて、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務(以下この条において「対象業務」という。) 二 対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であつて、当該対象業務に就かせたときは当該決議で定める時間労働したものとみなされることとなるものの範囲 三 対象業務に従事する前号に掲げる労働者の範囲に属する労働者の労働時間として算定される時間 四 対象業務に従事する第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。 五 対象業務に従事する第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。 六 使用者は、この項の規定により第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を対象業務に就かせたときは第三号に掲げる時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかつた当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。 七 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項 2項 前項の委員会は、次の各号に適合するものでなければならない。 一 当該委員会の委員の半数については、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者に厚生労働省令で定めるところにより任期を定めて指名されていること。 二 当該委員会の議事について、厚生労働省令で定めるところにより、議事録が作成され、かつ、保存されるとともに、当該事業場の労働者に対する周知が図られていること。 三 前二号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める要件 3項 厚生労働大臣は、対象業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るために、労働政策審議会の意見を聴いて、第一項各号に掲げる事項その他同項の委員会が決議する事項について指針を定め、これを公表するものとする。 4項 第一項の規定による届出をした使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、定期的に、同項第四号に規定する措置の実施状況を行政官庁に報告しなければならない。 5項 第一項の委員会においてその委員の五分の四以上の多数による議決により第三十二条の二第一項、第三十二条の三第一項、第三十二条の四第一項及び第二項、第三十二条の五第一項、第三十四条第二項ただし書、第三十六条第一項、第二項及び第五項、第三十七条第三項、第三十八条の二第二項、前条第一項並びに次条第四項、第六項及び第九項ただし書に規定する事項について決議が行われた場合における第三十二条の二第一項、第三十二条の三第一項、第三十二条の四第一項から第三項まで、第三十二条の五第一項、第三十四条第二項ただし書、第三十六条、第三十七条第三項、第三十八条の二第二項、前条第一項並びに次条第四項、第六項及び第九項ただし書の規定の適用については、第三十二条の二第一項中「協定」とあるのは「協定若しくは第三十八条の四第一項に規定する委員会の決議(第百六条第一項を除き、以下「決議」という。)」と、第三十二条の三第一項、第三十二条の四第一項から第三項まで、第三十二条の五第一項、第三十四条第二項ただし書、第三十六条第二項及び第五項から第七項まで、第三十七条第三項、第三十八条の二第二項、前条第一項並びに次条第四項、第六項及び第九項ただし書中「協定」とあるのは「協定又は決議」と、第三十二条の四第二項中「同意を得て」とあるのは「同意を得て、又は決議に基づき」と、第三十六条第一項中「届け出た場合」とあるのは「届け出た場合又は決議を行政官庁に届け出た場合」と、「その協定」とあるのは「その協定又は決議」と、同条第八項中「又は労働者の過半数を代表する者」とあるのは「若しくは労働者の過半数を代表する者又は同項の決議をする委員」と、「当該協定」とあるのは「当該協定又は当該決議」と、同条第九項中「又は労働者の過半数を代表する者」とあるのは「若しくは労働者の過半数を代表する者又は同項の決議をする委員」とする。 |