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残業代の計算

判例(特定の計算式で①賃金総額が先に計算される。その①賃金総額を②基本給、③時間外手当、④調整手当とに分けて支払う仕組みについて、③時間外手当は残業代の支払いにあたらない。)

2024/07/02 更新

固定残業代

(1)固定残業代とは、会社と従業員との合意を根拠に、特別な手当を残業代として支払うものです。

(2)固定残業代が残業代の支払いとして認められるためには、①基本給と残業代の区分けが明確であること(判別要件・明確区分性)、②当該手当が残業代として支払われているとの合意(対価性)が必要です。

(3)私見ですが、「対価性」とは、当該手当が設計として、「ざっくり計算で残業代を支払ったもの」と評価されうのか、それとも、「別の名目の手当(例えば、歩合給)を残業代の名目で支払っただけ」と評価されるのか、で判断されます。

事案

1 賃金体系

 問題となった賃金設計は以下のとおりです。(なお、実際の事例より簡略化させている。)

 支給額 =  基本給
       +時間外手当
       +調整額

(1)特定の計算式で計算されたは、①総額賃金が先に決まる。

(2)②基本給と③時間外手当を計算し、①-②-③=で計算された金額を④調整手当なる。

(3)②+③+④=①の総額賃金となる。つまり、総支払額は、①総額賃金と同じである。

①総額賃金

ⅠⅠ

②基本給③時間外手当④調整手当

2 前提事実

(1)労働基準監督署からの指導を受けて新賃金体系を導入した。

(2)「①総額賃金-②基本給=③時間外手当+④調整手当」となるところ、③④は、それぞれ名称が付されているという以上の意味を持たない。③と④の合計額を本件割増賃金という。

(3)新賃金体系の基本給は、旧賃金体系の基本給を大幅に削るものであった。

(4)新賃金体系における、本件割増賃金を時間外労働等に対する対価として考えると、新賃金体系は実際の勤務状況に照らして想定し難い程度の長時間の時間外労働等を見込む賃金体系となっていた。

(5)会社は新賃金体系は従業員に対し十分な説明をしていない。

3 結論

(1)最判は、以上の事実からは、「本件割増賃金は、その一部に時間外労働等に対する対価として支払われてるものを含むとしても、通常の労働時間の賃金として支払われるべき部分をも相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。」と述べています。
(2)つまり、判別要件(明確区分性)の点からも、対価性の点からも、残業代の支払いにあたるといえない、と判断しました。

令和5年3月10日最判
判例タイムズ1510

解説

(1)例えば、「上記の枠組みでは①総額賃金が先に決まります。②基本給、③時間外手当、④調整手当はこれを割り付けただけであるから、判別要件(明確区分性)も、対価性もない。」というシンプルな判断もありえる事案でした。しかし、最高裁はこれをしませんでした。

(2)最高裁は、「調整手当の趣旨としては、旧賃金体系との不利益変更を回避するための加算的な手当である。」という点を配慮したものであると思われます。

(3)例えば、「以下の要件を満たせば、新賃金体系も有効である。」との判断もあったかもしれません。

  (ア)②基本給と③時間外手当の金額を勤務実態と合致させる。
  (イ)新賃金体系の支払い総額は、旧賃金体系の支払い総額よりアップする。
  (ウ)調整手当を暫定的に無くしていく(調整手当は一時的な手当である)。
  (エ)会社が従業員に、新賃金体系について十分な説明をする。

(4)以上の事実を前提に、裁判所は、③時間外手当について「ざっくり計算で残業代を支払ったもの」と評価するものではなく、「特定の計算式で計算されたは、①総額賃金の名目上分けて、支払っただけ」と評価したものであると推察されます。従前の最高裁の判断から見れば当然の判断ともいえます。

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