固定残業代の記載
2023/08/02 更新
固定残業代
(1)固定残業代とは、会社と従業員との合意を根拠に、特別な手当を残業代として支払うものです。。
(2)固定残業の記載について考えてみましょう。
①金額明示 + ②時間明示 + ③清算合意
(1)例えば、「 固定残業代3万円(10時間分の 時間外割増賃金 )」「ただし、割増賃金の額が右時間を超えた場合には、追加の残業代を支払います。」と記載する方法が考えられます。
(2)最判平成30年7月19日の判決によれば、固定残業代の支払いが残業代の支払いにあたるためには、②時間の明示(10時間分の 時間外割増賃金 )も、③清算合意(「割増賃金の額が右時間を超えた場合には、追加の残業代を支払います。」という合意)も必須ではないとされています。
(3)「10時間分の 時間外割増賃金 」という記載には、3つの問題があります。
(ア)最賃の上昇等が理由となって、固定残業代3万円の支払いが不足する可能性があります。そして、従業員数が多いと不足しているか、チェックするのが現実的に困難です。
(イ)例えば、1時間の時間単価が、1000円である場合、本来の時間外割増賃金の単価は1250円です。
しかし、「 固定残業代3万円(10時間分の 時間外割増賃金 )」と定義した場合、 固定残業代3万円÷10時間=3000円となります。したがって、時間外割増賃金でどちらの数字を使うのか不明確になります。
この点は、10時間を超えた場合の 時間外割増賃金の単価を明示する方法で対応する方法もあります。
(ウ)「10時間分の 時間外割増賃金」と記載する上は、早朝深夜割増賃金から控除できません。
しかし、一般的な給与計算システムでは、「時間外割増賃金」+「早朝深夜割増賃金」+「休日割増賃金」-「既払金」で計算することになっている場合に、そのまま、「既払金」のところに入力できません。
(4)結論として、この記載はお勧めできません。
①金額明示 + ②清算合意
(1)例えば、「 固定残業代3万円」「同額を、時間外割増賃金、早朝深夜割増賃金、休日割増賃金として支払う。ただし、割増賃金の額が右時間を超えた場合には、追加の残業代を支払います。」と記載する方法が考えられます。
(2)最判平成30年7月19日の判決によれば、固定残業代の支払いが残業代の支払いにあたるためには、②時間の明示(10時間分の 時間外割増賃金 )も、③清算合意(「割増賃金の額が右時間を超えた場合には、追加の残業代を支払います。」という合意)も必須ではないとされています。
しかし、私見としては、このような書き方がベストだと考えます。
①金額明示のみ
(1)例えば、「 固定残業代3万円」と記載する形で支払われる残業代です。
(2)経営者の多くは、「清算したくない」という理由で、②清算合意(「割増賃金の額が右時間を超えた場合には、追加の残業代を支払います。」という合意)を削除します。
しかし、そのような運営方針で固定残業代を運用すれば、基本的には無効になります。
日数連動型
(1)契約書等が無くても、休日出勤や、残業した日に、その日数×一定額を支払う手当については、「給与明細等で、残業代と理解されやすい名称の手当」として支払われていいれば、残業代の支払いとして認められやすいです。
(2)就業規則等で、「土日の出勤があれば、休日出勤手当として1日〇円支払う。なお、休日出勤手当は、残業代として支払う。」という規定を設ける場合が考えられます。
(3)本質論として、残業代に合意は不要です。例えば、「8時間で労働で8000円という合意がある」(以下これを基本給の合意という。)が、1時間多く9時間働いた場合には、1時間について残業代が発生するのは、残業代の合意があるからではありません。基本給の合意があるから、1時間は1000円であるから、8時間を超えた場合には追加の賃金を支払うことが推察されるからです。
したがって、労働条件通知書や、就業規則に記載がなくても、給与明細等で、「休日出勤手当1万円」等の記載されていれば、残業代の支払いとして認められると考えられます。