Q 副業・兼業を原則禁止することは許されるのか。「会社の許可がなければ、副業・兼業はしてはならない。」してもよいのか。
2025/05/11 更新
判例の考え方
会社は、労働時間に限り、社員に対し命令を出す権限を持っています。判例は、下記の事業がない限り、副業・兼業を禁止してはらない、としています。
①本業に支障が出る可能性 ②企業秘密を漏洩する可能性 ③会社の名誉や信用を既存する可能性 ④協業して、会社の利益を損なう可能性 ⑤社員の体調管理に問題が生じる可能性 |
モデル就業規則
厚生労働省が出している最新の「モデル就業規則」では、以下のように記載されています。
就業規則第◯条 副業・兼業 1項 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる 2項 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。 ① 労務提供上の支障がある場合 ② 企業秘密が漏洩する場合 ③会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合 ④ 競業により、企業の利益を害する場合 |
判例2
(1)判例は、「会社の許可がなければ、副業・兼業はしてはならない。」という規定をしてもよい、と規定しています。
(2)例えば、「私企業の労働者は一般的には兼業は禁止されておらず、その制限禁止は就業規則等の具体的定めによることになるが、労働者は労働契約を通じて一日のうち一定の限られた時間のみ、労務に服するのを原則とし、就業時間外は本来労働者の自由な時間であることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く。しかしながら、 労働者がその自由なる時間を精神的肉体的疲労回復のため適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労務提供のための基礎的条件をなすものであるから、使用者としても労働者の自由な時間の利用について関心を持たざるをえず、また、兼業の内容によっては企業の経営秩序を害し、または企業の対外的信用、体面が傷つけられる場合もありうるので、従業員の兼業の許否について、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮したうえでの会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは不当とはいいがたく。したがって、同趣旨の……………就業規則・・・・・・の規定は合理性を有するものである。」(東京地決昭和57年11月19日労判397号30頁)」という判例があります。
(3)別の判例にはなりますが、「労働者は,雇用契約の締結によって一日のうち一定の限られた勤務時間のみ使用者に対して労務提供の義務を負担し、その義務の履行過程においては使用者の支配に服するが、雇用契約及びこれに基づく労務の提供を離れて使用者の一般的な支配に服するものではない。労働者は、勤務時間以外の時間については、事業場の外で自由に利用することができるのであり,使用者は、労働者が他の会社で就労(兼業)するために当該時間を利用することを、原則として許されなければならない。
もっとも、労働者が兼業することによって、労働者の使用者に対する労務の提供が不能又は不完全になるような事態が生じたり、使用者の企業秘密が漏洩するなど経営秩序を乱す事態が生じることもあり得るから,このような場合においてのみ、例外的に就業規則をもって兼業を禁止することが許されるものと解するのが相当である。
そして、労働者が提供すべき労務の内容や企業秘密の機密性等について熟知する使用者が,労働者が行おうとする兼業によって上記のような事態が生じ得るか否かを判断することには合理性があるから,使用者がその合理的判断を行うために、労働者に事前に兼業の許可を申請させ、その内容を具体的に検討して使用者がその許否を判断するという許可制を就業規則で定めることも,許されるものと解するのが相当である。ただし、兼業を許可するか否かは、上記の兼業を制限する趣旨に従って判断すべきものであって、使用者の恣意的な判断を許すものでないほか、兼業によっても使用者の経営秩序に影響がなく、労働者の使用者に対する労務提供に格別支障がないような場合には、当然兼業を許可すべき義務を負うものというべきである。」という判例があります(京都地判平成24年7月13日労判1058号21頁)。
就業規則の例
会社として、副業・兼業を認めるメリットは少ないために、下記のような規定をしてもよいでしょう。
就業規則第◯条 副業・兼業 1項 労働者は、許可なく他の会社等の業務に従事しない。 2項 労働者は、事前に、他の会社等の業務をしたいと届け出をしなければならない。 3項 会社は、下記の事情を考慮して、前項について許可をするかどうかを判断する。 ① 労務提供上の支障がある場合 ② 企業秘密が漏洩する場合 ③会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合 ④ 競業により、企業の利益を害する場合 4項 会社は上記に該当する可能性がある場合には、上記の許可を取り消すことができる。 |
参考
ビジネスガイド2025年2月号114頁