Q 残業代請求について、消滅時効をどのように確認すればよいですか。
2025/10/19 更新
時効
(1)実務では、時効をチェックします。
(2)まず、「債務の承認」にあたる行為をすると、依頼者に不利益になることがありえます。
(3)次に、時効の検討によって、問題の範囲を確認する必要があるからです。
例えば、残業代訴訟では、時効となっている賃金については検討する必要がありません。
3年の時効
(1)令和2年4月1日から、支払日が来るもの時効は3年になります。
(令和2年4月1日より、残業代の時効が「2年」から「3年」に延長されました。 )
(2)令和2年4月は、5年以上前の話ですから、現時点では3年でチェックすれば足ります。
例えば令和2年4月1日以前の問題が出てくれば、もう少し考えた方がよいかもしれません。
(3)なお、残業代の時効については、さらに5年に延長予定です(時期は未定)。
訴状が届いたとき
1 内容証明送付後の訴状の提出日
(1)内容証明が債務者に届いた日から、6ヶ月以内に訴状が裁判所に到達しているかチェックしましょう。
(2)内容証明等で請求することは民法150条の「催告」です。その請求から6ヶ月以内に訴状が裁判所に提出されたときは、時効は完成猶予となります(民法150条)。
逆に言えば、内容証明が債務者に到達した日から、6ヶ月以内に訴状が裁判所に到達しいなければ、その内容証明は(時効を考えるうえでは)無効となります。この場合には、その内容証明がないものとして、①その次に送られてきた内容証明で時効を検討するのか、もしくは、②訴状が裁判所に提出された日で時効を計算することになります。
2 内容証明の到達日
(1)内容証明(民法の催告)にて完成猶予の効果を検討するときには、内容証明等の請求が相手方に届いたときが基準日となります。
(2)内容証明が債務者に届いた日から、6ヶ月以内に訴状が裁判所に到達している場合には、内容証明(通知書)が債務者に届いた日から計算して、時効期間が経過していないかチェックします。
3 訴訟提起
(1)訴訟提起は、民法147条1項1号の「裁判上の請求」である。訴状が裁判所に届いた時点で、時効は完成猶予となります。(民法150条)。
(2)なお、時効の完成猶予の効果は、訴状が被告に届いたときではなく、訴状が裁判所に届いた時点に生じます。
(3)事前に通知書等の送付がない場合や、「内容証明が債務者に届いた日から、6ヶ月以内に訴状が裁判所に到達していない」場合には、訴状が裁判所に届いた日から計算して、時効期間が経過していないかチェックします。
参考
岡口基一「要件事実マニュアル(第6版)第1巻 総論・民法1」313頁
事例(実際に計算してみよう)
1 事案
(1)令和6年6月27日に、「残業代を支払え。」との内容証明が届きました(・・・(ア)。
(2) 会社の給与は「毎月月末締、翌月10日払」となっています。
(3)社員は、令和1年5月1日(・・・(イ))に入社し、令和4年5月末日(・・・(ウ))に退社しています。
(4)いつから、いつまでの労働日分の未払残業の有無が問題になるでしょうか。
2 計算
(1)令和3年6月1日~同月末日の給与の支払日は、令和3年7月10日です。
↓ (3年後)
令和6年7月10日です。
(2)令和6年6月27日の内容証明は、令和6年6月10日に時効となる賃金の時効の更新に間に合いません。
逆に、令和6年7月10日に時効となる賃金の時効の更新に間にあっています。
(3)したがって、令和3年6月1日から、退職日(令和4年5月末日(・・・(ウ)))までの残業代が問題となります。
