判例(定時株主総会で、再任されなかった取締役らは、会社法346条による取締役権利義務者として、取締役会で第三者を割当ての方法による新株発行等の発行を決議しました。しかし、この新株発行は従前から会社の財務状況改善のために議論されていたスキームであったことから、不当な目的がなく、新株発行の差し止めは認められない、とされました。)
2026/02/02 更新
新株発行の差止め
1 著しく不公正な方法による新株発行
(1)株主は、「新株発行が著しく不公正な方法により行われる場合」等には、新株発行差止請求権を行使できます。
(2)「新株発行が著しく不公正な方法により行われる場合」とは、主に、新株発行に不当な目的があるか、が議論されてきました(主要目的ルール)。
(3)具体的には、会社支配権の維持・争奪目的でなされる新株発行、取締役が議決権の維持又は争奪する目的でする新株発行、反対派の少数株主権を奪う目的でなされる発行などがこれにあたる。
(4)なお、「著しく不公正な方法」にあたるかは、主要目的ルールだけでなく、新株発行の経緯も考慮されます。
2 仮処分
(1)新株発行差止請求権は、新株発行が効力を生じた場合には、その対象を失って消滅してしまう。
(2)新株発行差止請求権を行使するには、仮処分の手続を行う必要があります。
(3)新株発行差止請求権を行使するには、「新株発行が著しく不公正な方法によるものであること」と「保全の必要性」が必要です。
なお、新株発行差止請求権は、新株発行が効力を生じた場合には、その対象を失って消滅してしまうので、「新株発行が著しく不公正な方法によるものであること」が認められる場合には、保全の必要性が否定されることはほとんどありません。
(4)なお、新株発行差止が認められた場合に、同決定に反して新株発行が強行された場合には、その新株発行は無効原因があることになり、後日、新株発行無効の訴えを提起することが可能となります。
| 会社法210条 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第百九十九条第一項の募集に係る株式の発行又は自己株式の処分をやめることを請求することができる。 一 当該株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合 二 当該株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合 会社法247条 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第二百三十八条第一項の募集に係る新株予約権の発行をやめることを請求することができる。 一 当該新株予約権の発行が法令又は定款に違反する場合 二 当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合 |
東京地判令和6年8月8日
1 事案
(1)Xは創業者で筆頭株主であったが、株式を第三者に譲渡する意向を示し、代表取締役を解任され、その後取締役を辞任した株主である。株式の譲渡には取締役会の承認が必要であるが、取締役会の承認を得ることができなかった。
(2)定時株主総会では、異例の動議があり、時間切れとなって流会となった(何ら決議でいなかった)。
(3)定時株主総会で、再任されなかった取締役らは、会社法346条による取締役権利義務者として、取締役会で第三者を割当ての方法による新株発行と新株予約権の発行を決議した。
(4)なお、この第三者割当は、厳しい財務状況に陥った会社の自己資本を増強する手段として従前より議論されてきたもので、企業ガバナンスを事業内容とする会社が引き受けることになっていた。
(5)Xが新株発行の差し止めを求める仮処分を行った。
| 会社法346条 1項 役員(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役若しくはそれ以外の取締役又は会計参与。以下この条において同じ。)が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。 (2項、以下省略) |
2 判決
(1)会社法210条2号及び247条2号に規定する「著しく不公正な方法による」 とは、不当な目的を達成する手段として新株発行又は新株予約権発行が利用される場合をいう。
(2)経営者と既存の株主との間に経営支配権についての争いがあり、既存の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株又は新株予約権の発行がされ、それが第三者に割り当てられる場合に、当該新株発行又は新株予約権が既存の株主の持株比率を低下させ、経営者の経営支配権を維持することを主要な目的としてされるものであるときは、当該新株 発行又は新株予約権は,不当な目的を達成するための手段として利用される場合にあたる。
(3)定時株主総会で、再任されなかった取締役らは、会社法346条による取締役権利義務者として、取締役会で第三者を割当ての方法による新株発行と新株予約権の発行を決議しました。しかし、この取締役権利義務者も、定時株主総会の後に招集された臨時株主総会においても、自らを取締役候補者にしておらず、また、自らの影響下にある者を取締役にして実質的に会社支配を維持する意図があったと認定できない。
また、X自身も、株式を第三者に譲渡する意向を示し、経営に復帰して会社支配を取り戻すことを企図していたとは思われない。
双方ともに、自ら会社の経営を支配しようとはしていないこととなり、典型的な意味で経営支配権を奪い合う関係にあるとはいえないが、お互いに対立して、他方が経営権を握ることについては歓迎できない立場にあり、広い立場でいえば、会社の支配権をめぐって対立関係にある。そこで、従前と同様の枠組み(新株発行等に不当な目的があるか)、で判断する(主要目的ルール)。
(3)本件の新株発行は、株主の持株比率に重大な影響を及ぼす新株が第三者に割り当てられている。
(4)しかし、本件の第三者割当は、厳しい財務状況に陥った会社の自己資本を増強する手段として従前より議論されてきたもので、株主共同の利益を目指すものであって、不当な目的はない。
(5)定時株主総会の運営や新株発行に至る経緯についても、不公正な方法で、新株発行の割当てがされたとはいえない。
(6)以上より、新株発行の差し止めは認めらえない。
解説
1 著しく不公正な方法による新株発行
(1)株主は、「新株発行が著しく不公正な方法により行われる場合」等には、新株発行差止請求権を行使できます。
(2)「新株発行が著しく不公正な方法により行われる場合」とは、主に、新株発行に不当な目的があるか、が議論されてきました(主要目的ルール)。
(3)具体的には、会社支配権の維持・争奪目的でなされる新株発行、取締役が議決権の維持又は争奪する目的でする新株発行、反対派の少数株主権を奪う目的でなされる発行などがこれにあたります。
2 本件の会社でのあてはめ
(1)本県では、双方ともに、自ら会社の経営を支配しようとはしていないこととなり、典型的な意味で経営支配権を奪い合う関係ではありません。しかし、お互いに対立して、他方が経営権を握ることについては歓迎できない立場にあり、広い立場でいえば、会社の経営の支配権をめぐって対立関係にあるとして、従前と同様の枠組み(新株発行等に不当な目的があるか)(主要目的ルール)で判断すべきとしました。
(2)なお、「著しく不公正な方法」にあたるかは、主要目的ルールだけでなく、新株発行の経緯も考慮されます。
そこで、本件では、定時株主総会の運営や新株発行に至る経緯についても検討してたうえで、不公正な方法で、新株発行の割当てがされたとはいえない、と判断しました。






