共通義務確認の訴え
2024/10/06 更新
このページを印刷共通義務確認の訴え
(1)消費者契約法による認定を受けた適格消費者団体は、消費者の紛争予防のために、事業者の行為を訴えることができます。
(2)共通義務確認の訴えによって、消費者が事業者に対し債権の確認をするには、以下の2段階の裁判手続が必要となります。
まず、適格消費者団体は、ビジネスモデル(契約、約款)に問題がある場合など、多数の消費者と共通の問題が生じる問題について、金銭支払義務の確認をします(共通義務確認訴訟)。
その後に、個々の消費者からの参加を待って、個々の消費者が当該事業者に対し債権を有することを確認する手続に移行します(簡易確定手続)。
消費者裁判手続特例法3条4項
(1)消費者裁判手続特例法3条4項は、「当該簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難であると認めるときは、共通義務確認の訴えの全部又は一部を却下することができる。」と定めている。
(2)簡易確定手続については、証拠調べが書証に限定されるなど証拠制限があります(48条)。
したがって、請求の当否や損害額の認定において、証人尋問や当事者尋問等の書証以外の証拠調べが必要な事案では、共通義務確認の訴えには適さないので、却下されるということになります。
(3)不法行為に基づく損害賠償請求について過失相殺が問題となる事案については、消費者ごとの個別の過失割合等を認定するのに、証人尋問や当事者尋問等の書証以外の証拠調べが必要な事案では、共通義務確認の訴えは却下されるということになります。
消費者裁判手続特例法2条 定義 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 (一号から二号省略) 四号 共通義務確認の訴え消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害等について、事業者、事業者に代わって事業を監督する者(次条第一項第五号ロ及び第三項第三号ロにおいて「事業監督者」という。)又は事業者の被用者(以下「事業者等」と総称する。)が、これらの消費者に対し、これらの消費者に共通する事実上及び法律上の原因に基づき、個々の消費者の事情によりその金銭の支払請求に理由がない場合を除いて、金銭を支払う義務を負うべきことの確認を求める訴えをいう。 (五号以下を省略する。) 消費者裁判手続特例法3条 共通義務確認の訴え 1項 特定適格消費者団体は、事業者が消費者に対して負う金銭の支払義務であって消費者契約に関する第一号から第四号までに掲げる請求及び第五号イからハまでに掲げる者が消費者に対して負う金銭の支払義務であって消費者契約に関する同号に掲げる請求(これらに附帯する利息、損害賠償、違約金又は費用の請求を含む。)に係るものについて、共通義務確認の訴えを提起することができる。 一 契約上の債務の履行の請求 二 不当利得に係る請求 三 契約上の債務の不履行による損害賠償の請求 四 不法行為に基づく損害賠償の請求(民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定によるものに限り、次号(イに係る部分に限る。)に掲げるものを除く。) 五 事業者の被用者が消費者契約に関する業務の執行について第三者に損害を加えたことを理由とする次のイからハまでに掲げる者に対する当該イからハまでに定める請求 イ事業者(当該被用者の選任及びその事業の監督について故意又は重大な過失により相当の注意を怠ったものに限る。第三項第三号において同じ。)民法第七百十五条第一項の規定による損害賠償の請求 ロ事業監督者(当該被用者の選任及びその事業の監督について故意又は重大な過失により相当の注意を怠ったものに限る。第三項第三号ロにおいて同じ。)民法第七百十五条第二項の規定による損害賠償の請求 ハ被用者(第三者に損害を加えたことについて故意又は重大な過失があるものに限る。第三項第三号ハにおいて同じ。)不法行為に基づく損害賠償の請求(民法の規定によるものに限る。) 2項 次に掲げる損害については、前項第三号から第五号までに掲げる請求に係る金銭の支払義務についての共通義務確認の訴えを提起することができない。 一 契約上の債務の不履行又は不法行為により、物品、権利その他の消費者契約の目的となるもの(役務を除く。次号において同じ。)以外の財産が滅失し、又は損傷したことによる損害 二 消費者契約の目的となるものの提供があるとすればその処分又は使用により得るはずであった利益を喪失したことによる損害 三 契約上の債務の不履行又は不法行為により、消費者契約による製造、加工、修理、運搬又は保管に係る物品その他の消費者契約の目的となる役務の対象となったもの以外の財産が滅失し、又は損傷したことによる損害 四 消費者契約の目的となる役務の提供があるとすれば当該役務を利用すること又は当該役務の対象となったものを処分し、若しくは使用することにより得るはずであった利益を喪失したことによる損害 五 人の生命又は身体を害されたことによる損害 六 精神上の苦痛を受けたことによる損害(その額の算定の基礎となる主要な事実関係が相当多数の消費者について共通するものであり、かつ、次のイ又はロのいずれかに該当するものを除く。) イ 共通義務確認の訴えにおいて一の訴えにより、前項各号に掲げる請求(同項第三号から第五号までに掲げる請求にあっては、精神上の苦痛を受けたことによる損害に係る請求を含まないものに限る。以下このイにおいて「財産的請求」という。)と併せて請求されるものであって、財産的請求と共通する事実上の原因に基づくもの ロ 事業者の故意によって生じたもの (3項は省略) 4 裁判所は、共通義務確認の訴えに係る請求を認容する判決をしたとしても、事案の性質、当該判決を前提とする簡易確定手続において予想される主張及び立証の内容その他の事情を考慮して、当該簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難であると認めるときは、共通義務確認の訴えの全部又は一部を却下することができる。 |
最高裁令和6年3月12日
仮想通貨の取引で簡単に絶対に稼ぐことができると誤信させるようなウェブサイトや動画で商品を購入させる(情報商材)を販売する事業者に対する訴訟について、消費者の過失相殺が問題になり得るが、ウェブサイトや動画で誤信させるという経緯は共通し、これを信じて購入するという消費者の主観も共通し、商品が投資そのものではなく情報商材であって、消費者の投資経験等を考慮する必要性も低いという事情を考慮して、不法行為に基づく損害賠償請求について過失相殺が問題となる事案ではあるが、「「当該簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難であると認めるとき」にはあたらない。つまり、共通義務確認の訴えは適法である、と判断しました。
最高裁令和6年3月12日
判例タイムズ1523号100頁