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印鑑と自筆の証拠価値

2023/10/16 更新

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印鑑を押す意味、署名する意味

(1)契約書に、Aの署名があることは、二つの意味を持ちます。
(2)一つは、Aさんが契約という法律行為をした証拠になります。なぜなら、契約書に署名する行為をした以上は、「Aさんは、契約書の内容で契約する意図であった。」ことが推察されるからです。
(3)もう一つは、契約書したのは、Aさんであるということです。

以下の議論は、「契約したのは、Aさんであるか」について、どれほどの証明力を持つかについて説明します。

印鑑のメリット、デメリット

(1)契約書にAさんの印鑑が押されていれば、「Aさん(Aさんに頼まれた人を含む)が契約する意図で印鑑を押したこと」、そして、「Aさんが、その契約書の内容で契約する意図であった。」ことが推察されます。
  法律上は、この推論過程を「二段の推定」と呼びます。
(2)民事訴訟において、契約書にAさんの名義の印鑑が押されていれば、「その印鑑が本当にAさんのものか」が問題となります。
 つまり、仮に、Aさんが「そのような契約書に印鑑を押した覚えはない。」と言えば、その契約書の印影がAさんの印鑑のものか問題となってきます。
(3)実印が押印されていれば、印鑑登録の印影と一緒かどうかで立証できます。また、継続的な取引を行っている場合には、別の契約の印鑑と一緒かどうかで立証できます。
 しかし、そうでない場合には、印鑑だけでは立証することは難しいことになります。
(4)なお、裁判実務では、Aが「確かに、契約書の印影は、Aの印鑑に似ているが、今の時代簡単に偽造できる。」と反論しても、反論としては取り扱ってもらえません。
 現実問題として、Aの印鑑(の印影)を入手して、印鑑を偽装することは難しいことや、そこまですれば犯罪であり、現実に起こることが稀だからです。
 仮に、Aが「契約書の印影は、偽造された印鑑の印影である。」と反論するのであれば、「契約に立ち会った自分物はAではないこと」等についても立証していく必要ができてきます。
(5)印鑑による立証は完璧ではありませんが、「実印を押印してもらい、印鑑証明書を交付してもらう」場合には、印鑑証明と(契約書に押された)印影を見比べるだけで、「契約書の印影がAさんの印鑑であること」「「Aさんが、その契約書の内容で契約する意図であった。」を容易に確認できるのが印鑑のメリットです。

自筆の署名のメリット、デメリット

(1)印鑑(印影)による立証の場合、「印鑑を盗まれた。」もしくは、「印鑑は偽造である。」との反論を許すことになります。
(2)これに対して、自筆の署名の場合には、Aが自筆で署名した以上は、「Aさんが契約書に署名したこと」「Aさんが、その契約書の内容で契約する意図であった。」ことが推察されるため、上記のような反論はありえません
(3)現実論として、(自筆で署名されている)契約書を見せれば、相手方が納得することはよくあります。
 一般人の認識としては、「自署した場合には、筆跡鑑定で判断されるので言い逃れできない。」という心理が働きます。
 印鑑と比べても、「Aさんがこんな書類に契約したことはない。」と言わせない心理的効力は、自署の方が勝るといってもよいでしょう。

(4)しかし、仮に、Aが「契約書の署名は、私の署名でない。」と言えば、その契約書の署名がAさんの自署であるかが問題となります。これを筆跡鑑定で確定させることは実は難しいことです。
 まずは、筆跡鑑定にはかなりの費用がかかります。
 次に、AさんはAさんに有利な筆跡鑑定を、BさんはBさんに有利な筆跡鑑定を出してくる可能性があり、最終的には裁判所で再度、筆跡鑑定をすることになるかもしれません。
 そもそも、筆跡鑑定は、「字のくせ」の共通点の有無及びその個数でしかありません。「Aさんの字である」とは断言できません。Aさんの字と特徴が似ていることを前提に、「Aさん字である。」としても矛盾しない、という程度のことしか確定ができません。
 何より、文書管理の観点から見れば、自署しかない書類は、本当にその人が自署したものなのか確認ができない点が難点です。
(5)紛争予防の観点からは、「契約の当時に、Aさんから身分証をもらってAさんであること確認し、身分証のコピーをもらっておく。」「契約時の会話を録音しておく。」「後日、『先日は契約締結にご協力ありがとうございました。』とメールを送っておき、契約日や、契約に立ち会ったことを証拠化する」ことが必要です。

電子契約

(1) 最近は電子契約も増えてきました。
(2) 例えば、Aさんのクレジットカード情報を入力して、インターネット上で、「契約内容を確認したうえで、購入します。」とのボタンを押せば、(Aさんのクレジットカードを持っているのはAさんであることが推認されるので)、Aさんが契約する意思で、そのボタンを押したと推察されます。
(3) メールアドレスを利用して、〇〇@gmail.com(の利用者)と、△△@gmail.com(の利用者)との間で、契約が成立したことを証明するサービスもあります。
 例えば、いつも連絡をメールでやり取りしている関係であれば、「Aさん」と「〇〇@gmail.com(の利用者)」の同一性は容易に立証できます。
 いつものやり取りをメールでしている関係に限りますが、これは、印鑑や、署名と比べても、契約者の同一性を立証する方法として強固な立証方法といえます。
(4)前述したように、(自筆で署名されている)契約書を見せれば、相手方が納得することはよくあります。これに対して、電子契約の場合には、 「システム上こう表示されています。」と 説明しても、相手方の納得を得ることが心理的に難しいところがデメリットです。

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