Q 表見代理について教えて下さい。
2025/10/13 更新
このページを印刷表見代理
1 民法の概念
(1)表見代理は、無権代理ではあるものの、①本人に帰責性があり、かつ、②代理権が存在しているかのように見える外観があり、③善意無過失の第三者を保護する制度です。
(2)以下の3つの類型があります。
①代理権授与の表示による表見代理 本人が、代理権を授与したかのような外観を作出した。 ②権限外の行為の表見代理 本人が代理権を与えており、その代理権を超えて無権代理となった。 ③代理権消滅後の表見代理 本人が与えた代理権は消滅したたために、無権代理となった。 |
2 実務的な観点
(1)例えば、AがYを名乗って、XとYの契約を締結した。Xが契約の成立を主張し、Yが否定したとする。
Xが、「代理として契約が有効である。」もしくは「表見代理として契約が有効である。」と主張することが考えられる。
(2)しかし、Xがどの法律構成をとっても、Yが契約を成立させようと思っていたことを推察させるような事実の有無が争点となる。つまり、どの法律構成をとっても、実際の争点は大きく変わらない。
(3)代理の主張をしていたが、表見代理の主張をしていなかったとして、表見代理の主張をしていれば結論が異なったという事例はそう多くないだろう。
代理権授与の表示による表見代理(の要件事実)
① AがCと法律行為(例えば契約)をすること
② AがBの代理人として、①の法律行為(例えば契約)をすることを示したこと(顕名)
③ ①に先立って、BがAに①の法律行為(例えば契約の)代理権を与えた旨の表示をしたこと
民法109条(代理権授与の表示による表見代理等) 1項 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。 2項 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。 |
代理権授与の表示
(1)法定代理は、代理権授与の表示にあたらない。
(2)公法上の行為も、原則ととして、代理権授与の表示にあたらない。
参考
岡口基一 「要件事実マニュアル 第6版 第1巻 民法1 」233頁
白紙委任状と代理権授与の表示
(1)本人が、白紙委任状を交付することは、代理権授与の表示にあたりえる。
(2)白紙委任状を直接交付を受けた人物がこれを濫用した場合には、代理権授与の表示による表見代理が成立する。
(3)白紙委任状を誰でも使用してよい(直接交付を受けた人物以外が利用することも許容していた)場合(輾転(てんてん)予定型)の場合には、白紙委任状の転得者がこれを濫用した場合には、これを濫用した場合には、代理権授与の表示による表見代理が成立する。
(4)白紙委任状を特定の人物だけが利用することを想定していた場合(非輾転(てんてん)予定型)、転得者がこれを濫用した場合には、実際にされた代理行為が当初の予定と大きく異ならない限り、代理権授与の表示による表見代理が成立する。
参考
岡口基一 「要件事実マニュアル 第6版 第1巻 民法1 」233頁
権限外の行為の表見代理(の要件事実)
① AがCと法律行為(例えば契約)をすること
② AがBの代理人として、①の法律行為(例えば契約)をすることを示したこと(顕名)
③ ①に先立って、BがAに①の法律行為(例えば契約の)の基本代理権を与えたこと
④ Cは、Aに代理権があると信じたこと(善意)、及び、⑤正当な理由があること(無過失)
民法110条(権限外の行為の表見代理) 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。 |
基本代理権
(1)法定代理が、基本代理権にあたりえるかは考え方が別れる(佐久間毅 「民法の基礎 1 総則 第5版」287頁以下)
(2)公法上の行為も、原則として、基本代理権にあたらない。
最判昭和46年6月3日
(1)登記義務を負う者が、登記申請行為を他人に委任し、実印等をこれに交付したような場合、基本代理権にあたるとされました。
(2)同判例は、単なる登記申請行為(登記申請行為)の受験ではなく、私法上の契約の履行を目的としていた点で、私法上の行為の代理権を与えた場合と同様に考えるべきとされた判例です
受権表示かつ権限外行為
(土地の売買の委任状をする意図で)白紙委任状を交付された者(受権表示)が、その権限を超えた代理行為(土地の交換)をした事案で、109条と110条をあわせて適用することを認めた判例もある(最判45年7月28日民集24巻7号1203頁)
代理権消滅後の表見代理(の要件事実)
(1)「代理の成立」が請求原因となる。 → 「代理権の消滅」が抗弁となる。→「代理権消滅後の表見代理」が再抗弁となる。
(2)代理権消滅後の表見代理(の要件事実)は、以下のとおりである。
④ 代理権の消滅を知らなかったこと(善意)、及び、⑤正当な理由があること(無過失) |
参考
岡口基一 「要件事実マニュアル 第6版 第1巻 民法1 」246頁
民法112条(代理権消滅後の表見代理等) 1項 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。 2項 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。 |
代理権消滅かつ権限外行為
以前に代理人だった者が、代理権消滅後に、かつて与えられていた代理権の範囲を超える法律行為をした場合にも、110条と112条をあわせて適用することを認めた判例もある(最判35年12月27日民集14巻14号3234頁)