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【個人破産】個人破産の申立と、訴訟への影響

2024/11/27 更新

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非免責債権

(1)法人破産の場合には、免責という概念が存在しません。これに対して個人破産の場合には、免責制度があり、免責の許可があれば、破産者は債務の支払い義務がなくなります。

(2)個人から破産申立があった場合は、裁判所は裁量等に基づいて破産者の免責を許可でき(破産法252条1項、2項)、免責を受けた破産者はその債務の支払いを免責されます(破産法253条1項、2項)。

(3)しかし、非免責債権に限っては免責の対象となりません(破産法253条1項)。

破産法252条(免責許可の決定の要件等)
1 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
一 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。  
 (省略)
2 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。  
 (以下、省略)  

破産法253条(免責許可の決定の効力等)
1 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)  
 (以下、省略)

交通事故と非免責債権

(1)「悪意の不法行為」「故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為」は、非免責債権とされています(破産法253条1項2号、3号)。

(2)ここでいう「悪意」は、単に故意だけでは足りず、他人を害する積極的な意欲をいう、と言われています。

(3)自転車を時速約25キロから30キロのスピードで、無灯火で歩行者とぶつかった事案で、「故意又は重大な過失」があるとされて、非免責債権に当たるとされた事案があります(東京地平成28年11月30日交民49巻6号1415頁)。

(4)運転手が無免許かつ飲酒運転状態で対面信号をことさらに無視して事故を起こした事案の同乗者であった者について非免責債権にあたらないとしたものがあります(東京地判平成24年5月23日 交民45巻3号689頁)。

(5)無免許運転中に歩行者と衝突した事案で、歩行者を看過した点は悪質とは認められない。無免許運転は故意であるものの、本件交通事故によって歩行者に怪我を負わせたことの直接の因果関係はない。したがって、無免許運転中に歩行者と衝突した事案では、非免責債権にあたらない、としたものがあります(令和6年3月6日名古屋地判 判例タイムズ1425号220頁)。

破産申立と訴訟への影響

(1)訴訟中に、当事者が破産の申立をして(破産の書類を裁判所に出して)、破産開始決定がされるまでの間はどうなるか。

(2)個人破産の場合には、管財人が選任される(管財人が破産者の財産を債権者に分配する等の業務を行う)管財型と、破産開始決定と同時に破産手続きが終了する同時廃止型に分かれます。管財人のするべき業務がないときには同時破産型となります。

(3)理論上、同時廃止型では、破産開始決定と同時に破産手続きが終了するので、訴訟手続きは中断しません。これに対して、管財型では、破産開始決定後には訴訟は中断することになっています。

(4)現実的な運用としては、当事者が破産の申立をした(破産の書類を裁判所に出した)場合には、破産開始決定前までの期間に、「急いでそのまま判決や和解をしてしまう」対応か、「訴訟を中断する。」か、どちからの対応となります。

被告の破産申立と訴訟への影響

1 被告の破産申立と訴訟への影響

(1)訴訟中に、被告が破産の申立をして(破産の書類を裁判所に出して)、破産開始決定がされるまでの間に、判決を出す場合にどうすればよいのか。

2 非免責債権であるかについて審理する。

(1)被告が非免責債権であると主張して、裁判所がこれらの審理をしてから、判決を下す方法がありえます。

(2)非免責債権であれば、免責の対象とならないので、何ら限定を付けないで判決を下すことになります。

(3)非免責債権でなければ、破産手続によって免責されるかどうか問題となります。

 つまり、裁判所が免責決定をしたら、その債務の支払い義務がなくなります。これに対して、裁判所が免責決定をしなければ、何ら限定はないことになります。

(4)まず、判決の理由中の中で、非免責債権に該当するかどうかを審理します。

(5)次に、主文では、免責決定がされれば、自然債務であること(支払いを強制できない債務)であることを前提にした判決を出し、免責決定がなければ通常通りの判決を出すことになります。

 つまり、「免責決定がなければ、◯円支払え。」「免責決定がなければ、◯円を支払う義務があることを確認する。」との判決を出すことになります。

3 そのまま判決

(1)理論上、訴訟手続への影響があるのは、破産開始決定後です。

(2)したがって、何ら限定を付けないで判決を下すことが考えられます。

(3)理論的には、破産手続の影響等は被告が主張すべき問題であり、被告が主張しないのであれば、裁判所はそのまま判決を下しても問題ありません。

(4)被告としても、破産手続で財産が無くなるので、判決を取られても問題ない。万が一、原告が判決に基づいて強制執行してきた場合には、そのときに免責等の主張をすればよい、という対応もありえます。

参考

 判例タイムズ1525号220頁について、上記について詳しい説明がされています。

 

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