予備校の教材の転売の違約金と消費者契約法10条
2024/09/04 更新
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大学受験の予備校の約款に、「予備校が提供する教材について、複製、転売を禁じる」こと「これに違反したときには、受講料の10倍もしくは500万円の高い方の金額を支払う義務がある。」と記載されていました。
上記予備校の受験生がインターネットのフリーマーケットで、教材を転売しました。
予備校は、受験生に対し500万円を請求する訴訟を提起しました。
判決
第一審(令和4年2月28日)は、100万円を限度で、予備校の請求を認めました。
控訴審(令和4年11月10日)は、5万円の限度で予備校の請求を認めました。(控訴審では、100万円は高すぎると判断し、5万円に減額しました。)
解説:違約金条項と消費者契約法9条
消費者契約法8条は事業者の免責について、消費者契約法9条1号は解除・違約金について定め、消費者契約法10条はそれ以外について規制を定めています。
消費者契約法9条1号は、違約金条項について平均的な損害を超える賠償を禁じています。
控訴審(令和4年11月10日)は、消費者契約法9条1号は契約の解除を前提とするものあって、本件では、複製、転売が問題となっており、契約の解除が問題となっていないことから、本件では消費者契約法9条1号の問題ではない、としています。
解説:消費者契約法10条
(1)消費者契約法10条は、消費者にとって不当に不利益な条項については無効となると定めています。
(2)違約金条項が消費者契約法10条に違反するかどうか、検討する場合には、「①違約金条項が有効なのか。」を検討し、次に、「②有効であるとして、違約金請求の全額を認めるのか、それとも、一部を認めるのか。」を検討します。
これに対して、①②と分けて判断するのではなく、「500万円の請求を定める本件違約金条項が有効かどうか(全部有効か、全部無効か)で判断する」ことも考えられます。
しかし、本件(第一審も控訴審も)では、①②に分けて判断をしています。① ②で分ける方法が、事案に応じた妥当な解決を妥当な解決を導きやすいという利点もあります。
本件(第一審も控訴審も)は、①について、ノウハウが流出を防止するという目的からすれば、違約金条項は有効としています。
②については、第一審と控訴審の認定金額に違いが生じています。これは当事者の損害(公平)を考慮してバランスをとって、どれぐらいの金額が妥当かの結論をだしたものです。
(3)第一審(令和4年2月28日)は、100万円を限度で、予備校の請求を認めました。つまり、それを超える部分は消費者契約法10条で無効と判断しました。
控訴審(令和4年11月10日)は、5万円の限度で予備校の請求を認めました。つまり、それを超える部分は消費者契約法10条で無効と判断しました。
消費者契約法9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)
1項
次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
ニ 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分
2項
事業者は、消費者に対し、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項に基づき損害賠償又は違約金の支払を請求する場合において、当該消費者から説明を求められたときは、損害賠償の額の予定又は違約金の算定の根拠(第十二条の四において「算定根拠」という。)の概要を説明するよう努めなければならない。
消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。