判例(被疑者が逮捕されたとの新聞記事について、被疑者の氏名だけでなく住所(丁目だけでなく番地までの住所)を記載したとしても、プライバシーの侵害を理由とする損害賠償義務を負わない。)
2024/06/19 更新
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被疑者は営利目的で覚醒剤を所持したとして逮捕されました。
本件新聞社は、被疑者の氏名、年齢、職業、国籍、住所(丁目だけでなく番地までの住所)を記載して、同人が逮捕されたと報じました。
その後、被疑者は不起訴となりました。
報道とプライバシー
事案では、被疑者の氏名、年齢、職業、国籍、住所(丁目だけでなく番地までの住所)が報道されました。
氏名だけでは同一同名の人が誤解を受ける可能性があり、被疑者の特定のために、氏名だけでなく、丁名までの住所の一部を記載する必要性はあります。
しかし、地番まで記載する必要はあるでしょうか。
本判決
本判決は、被疑者が逮捕されたとの新聞記事について、被疑者の氏名だけでなく住所(丁目だけでなく番地までの住所)を記載したとしても、プライバシーの侵害を理由とする損害賠償義務を負わない、と判断しました。
(令和3年11月18日東京高裁)
参考
判例タイムズ1511号 162頁
解説
東京高裁は、「住所(丁目だけでなく番地までの住所)を記載したとしても、プライバシーの侵害を理由とする損害賠償義務を負わない。」という判断をしました。
しかし、第一審では、住所はプライバシーとして秘匿する必要性は高い、住所について丁目まで記載するという取り扱いでも、第三者と混同されることを防ぐことができ、番地まで記載する必要性は高くないとして、損害賠償請求の一部を認めていました。
裁判官でも判断が分かれる問題であり、下記の事情を考慮した上での判断です。今後も同じ結論の判決が出る保証はありません。
東京高裁は、被疑者の氏名を町名までにとどめる新聞社が多いが、各社の方針が決まっているわけではない(一部には、地番まで記載する新聞社もある)、少なくとも、現時点において、被疑者の氏名を町名までにとどめることが社会通念になっているとはいえないこと、氏名等が新聞報道されていることから、住所の開示によって、私生活の平穏が害される恐れに格段の違いがあるわけではないこと等を考慮してプライバシーの侵害を理由とする損害賠償義務を負わない、という判断をしました。
マスコミ各社の方針が決まっていければ、今後の判断が異なる場合もあります。また、氏名の報道が許される条件がそろっている場合に限っての判断でもあります。
一般論としては、氏名の報道が許されるケースでも、住所の記載は地番までと考えるのが妥当でしょう。