子供が拒否した場合の、子供の引き渡し義務と間接強制(1)
2024/11/14 更新
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別居している夫婦に関し、母親の申立てにより「監護権者を母親とする。」「父親は母親に対し子供を引き渡せ」と命じる審判が下った。
父親は引き渡しに最大限努力したが、子供が嫌がって、引き渡すことができなかった。
母親は、父親に対し、子供を引き渡さないときには、1日2万円を支払えとの間接強制の申立てをした。
引き渡しのための最大限の努力
父親は以下のように、引き渡しに最大限努力したが、子供が嫌がって、引き渡すことができなかった。
- 母親は子供と2回にわたって面会し、母親の家に来るように説得したが、子供から拒絶された。
- 父親は、子供を母親の家に連れていき、子供と母が会って1時間半近く話す機会を作ったが、子供は父親の家に帰ると述べて引き渡しできなかった。なお、このときには、父親の代理人弁護士が立ち会った。
- 母親は、父親に対し、父親の代理人弁護士が立ち会いが無い状態で、母親の家で面談させるように求めたが、父親は拒絶した。
これに対して、母親は、父親に対し、子供を引き渡さないときには、1日2万円を支払えとの間接強制の申立てをした。
判決
(家庭裁判所の審判により子の引き渡しを命じられた)父親は、引き渡しに最大限の努力をしたが、功を奏せず、これ以上、引き渡しを進めようとすると子供の心身に有害な影響を及ぼすことがないよう配慮しつつ同人の引き渡しを実現するため、合理的に必要と考えられる父親の行為を具体的に想定することが困難であるとして、母親の間接強制の申立てを権利の濫用にあたると判断しました。
名古屋高裁令和4年3月31日
参考
判例タイムズ1510号194頁
解説
1 親権者、監護権者の変更
離婚事件等では、夫婦の一方が、他方に対し、「自分が監護権者である。」「監護権者である自分に対し子を引き渡せ。」と子の引き渡しを求めることがあります。
家庭裁判所は、子供を監護する者がどちらが適切なのかを判断して、親権者、監護権者を決めます。
2 「子の引き渡し」の強制執行
家庭裁判所の審判等により子の引き渡しを命じられたが、他方の親が引き渡しに応じない場合には、「子の引き渡し」の強制執行が問題になります。
改正民事執行法によれば、執行官による子の引渡しの手続をする前に、原則として、間接強制の方法による子の引き渡しの手続(子供を引き渡さないときには、1日2万円を支払えと命じる手続)をしなければならない(民事執行法174条1項2号)とされています。
なお、人身保護法の要件を満たせば、人身保護法による「子の引き渡し」を検討することもできます。
3 子の引き渡しの間接強制
「子を引き渡す」旨の内容の調停が成立していること、もしくは、子の引渡しを命じる審判が確定していること等が必要です。
子の引き渡しの間接強制には、家庭裁判所への申立てが必要です。
4 本件の問題点
本件では、(家庭裁判所の審判により子の引き渡しを命じられた)父親は母親と子供が会う機会を作ったが、子供が嫌がって、引き渡すことができなかった。
この場合にでも、「(家庭裁判所の審判等により子の引き渡しを命じられた)父親は、(監護権者である)母親に子供を引き渡す義務があり、子供を引き渡さないときには、1日2万円円支払う義務を負う(間接強制)」のか、が問題になりました。
本件では、(家庭裁判所の審判により子の引き渡しを命じられた)父親は、引き渡しに最大限の努力をしたが、功を奏せず、これ以上、引き渡しを進めようとすると子供の心身に有害な影響を及ぼすことがないよう配慮しつつ同人の引き渡しを実現するため、合理的に必要と考えられる父親の行為を具体的に想定することが困難であるとして、母親の間接強制の申立てを権利の濫用にあたると判断しました。