故人(被相続人)のお金を預かるときの注意点(1)
2024/10/06 更新
このページを印刷故人(被相続人)のお金を預かるときの注意点
故人(被相続人)のお金を預かる場合、なぜ注意しなければならないのですか?
他の相続人との間でトラブルになるケースがあるからです。
詳しく説明しましょう。
故人が亡くなった後に、故人の身の上の世話をしていた相続人が、今まで故人と疎遠だった相続人から訴えられるケースがあります。
身の上の世話をするには、故人からお金(預貯金)を預からざるを得ません。兄弟仲が悪いなど、相続人どうしの関係が悪いと、大きなトラブルになります。
補足
以下、故人を「本人」と呼びます。
以下、故人を監護していた相続人を「監護相続人」と呼びます。
裁判になった場合の争点は、「本人の意思に反し、預金を引き出したかどうか。」です。
以下の項目が主に争点になります。
関与の有無
預金の引き落としに、監護相続人が関与していたか問題になります。
関与していた時期が、いつからいつまでなのか問題になります。
例えば、本人の入院後に、預貯金を預かったのであれば終期は明確ですが、始期が不明確なケースは多いです。
関与の形も問題になります。本人に代わって引き落としたのか。本人と一緒に銀行にいったのか。どちらもあったのか(本人が引きだすことも、監護相続人が引き出すこともあった)。全く関与していないのか。
監護相続人が関与していることが明らかになれば、監護権者がそのお金の使い道を説明しなければならなくなります。
預貯金を預かった経緯(委託型)
預貯金を預かった経緯は重要な争点です。「監護相続人が本人から頼まれて預金を預かった。」(①委託型)のかどうかも争点です。
①委託型の場合には、預金の支出については本人の意向に従ったものか、が争点になります。
①委託型の場合には、②能力欠如型(本人の意思能力が低下して預貯金を預かったケース)や③侵奪型(本人の承諾なく、預貯金を持ち出したケース)と比べると、「本人の意向にしたがった支出である。」と認められる範囲が広がります。
例えば、監護相続人が本人の常時介護をしており、監護相続人の生活費を本人の預金から支出することが認めていたケースでは、監護相続人の生活費も本人の意向に基づく支出として認められることになります。
本人の生活費、医療費、介護費用
本人の生活費、医療費、介護費用は、本人のための支出と認められます。
通帳で支出名目が確認できる場合や、本人の生活費を推定して計算することも認められます。
本人の葬式費用
本人から、「本人の財産から葬式費用を支出してほしい。」という合意があったと立証できるケースでは、相当額の葬式費用が本人のための支出として認められます。
①委託型の場合にも、通常は委託の範囲を超えているとされ、個別の合意がなければ、本人のための支出とは認められません。
監護相続人名義の不動産の改装費
例えば、本人が退院後に、監護相続人の家で生活する予定だった場合には、バリアフリーのための改装費は本人のための支出として認められます。
例えば、監護相続人の不動産が老朽化しており、その修繕のための支出であるが、監護相続人が本人の常時介護を行っており、監護相続人の生活費を本人が支出していたケースでは、修繕費は生活費と比べて高額ではあるものの、本人の意向に基づく支出として認められる可能性があります。
本人の承諾、もしくは、贈与
監護相続人の生活費、監護相続人の自宅の修理、監護相続人の子供の学費、監護相続人名義の自動車購入代など、監護相続人のために使われた支出です。
監護相続人が「本人の承諾」もしくは、「本人からの贈与」を立証しなければなりません。
参考
判例タイムズ1500号39頁