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明示的一部請求と時効

2024/09/13 更新

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一部請求

一部請求と時効との関連について、以下のケースを例にご説明しましょう。

ケース①

被害額は1億円ですが、実際に勝てるかどうか分かりません。手数料の節約のために、「被害額は1億円であるが、今回はそのうち1000万円を請求する」という内容の訴訟をするものとする(なお、時効の完成までは1年だとする)

ケース②

交通事故で怪我をして、治療中である。現在頭痛がするが、交通事故との因果関係は不明です。事故より2年が経過し、時効の完成までは1年だとする。

明示的一部請求

「損害額1000万円のうち200万円の支払いを請求する。」等、請求金額が一部であることが明示されている請求を明示的一部請求といいます。

「1000万円を貸したが、500万円の返済を受けたので、残り500万円を請求する。」という請求も明示的一部請求です。

なぜなら、返済された500万円は、「返済されたかどうか」が審理の対象となっていません。その意味で、請求金額が一部請求だと明示された請求となります。


一部だと明示されているかどうかは、訴状の全体の記載で判断します(最判平成20年7月10日)。

黙示的一部請求

一部であることが表示されていない請求を黙示的一部請求といいます。

一部請求ではないと明示しない一部請求ですが、例えば、ケース②のような事案で、過失割合を見直した結果、請求額が増えるようなケースが考えられます。

黙示的一部請求である場合には、訴えの変更後の請求額(正確な表現として、残額請求)は、変更前の一部請求により裁判所の審理対象となっている(裁判上の請求手続がとられている)から、時効は完成しない(時効の更新)、と判示しています。(最判昭和45年7月24日)。

ケース①と時効の更新

ケース①の場合、明示的一部請求となります。残部(被害額1億円から請求額の1000万円を控除した残額9000万円)について時効が完成してしまうでしょうか。

平成25年6月6日付最高裁判決は、明示的一部請求について、特段の事業がない限りは(一部請求の訴え提起が催告にあたるので)一部請求訴訟の終了後6か月位以内に残部請求の訴えを提起すれば、時効は完成しない(時効の更新)、と判示しました。

つまり、明示的一部請求で満額勝訴した場合には、訴訟が終わってから、6か月位以内に残部請求の訴えを提起すればよいことになります。

ケース②と時効の更新

現在、治療中の症状が後遺症であると認められるかどうかで時効の起算点が変わってきます。

無難な対応としては、時効の完成前に、一部でもよいので調停手続もしくは訴訟提起する必要があります。

治療期間が延びれば、例えば慰謝料の金額が増えます。これが明示的一部請求なのか、黙示的請求なのかは、訴状の記載によって明示されていたかどうかという問題です。

したがって、前訴の6か月前に、残部請求を行いましょう。実務的には、訴訟継続中に、請求額を増額する訴えの変更を行うことになるでしょう。

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