有責配偶者の婚姻費用の請求
2025/05/07 更新
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(1)婚姻費用は、結婚期間中の生活費の請求です。
(2)有責配偶者とは、夫婦関係の破綻の主な責任がある者です。有責配偶者が夫婦の他方に婚姻費用を請求することが認められるだろうか。
(3)判例の多数は、有責配偶者の婚姻費用の請求は信義則あるいは権利濫用として許されず、未成熟子の養育費相当部分に限って請求できる、とする。
参考
松本哲泓「〔改訂版〕婚姻費用・養育費の算定-裁判官の視点にみる算定の実務-」29頁以下
これに対しては、有責配偶者が最低限の生活を維持できない場合には生活保護を受給することになるが、有責配偶者であっても、扶養義務が存在する。このため、有責配偶者が生活に困窮しており、必要最低限度の生活を維持する程度の生活補助義務は免れない。 したがって、有責配偶者が生活に困窮している場合には、必要最低限度の生活を維持するための限度での婚姻費用の請求は認められる、という判例も存在する(判例タイムズ1530号105頁)。 |
無断の別居は有責配偶者となるか。
(1)別居そのものは、別居の原因がどちらにあるのか不明であり、別居したことそのものは有責性とは無関係である。
(2)例えば、妻が出産のために実家に帰り、その後、帰宅しないという事実だけでは、有責配偶者とはならない。
参考
松本哲泓「〔改訂版〕婚姻費用・養育費の算定-裁判官の視点にみる算定の実務-」33頁以下
有責配偶者の認定
(1)夫婦の一方が婚姻費用を請求し、夫婦の他方が「その一方が有責配偶者である。」と主張したが、その一方が否定すると、有責であること(夫婦関係の破綻の主な責任がその者にあること)の立証は困難となります。
(2)有責配偶者にあたるかについて、探偵が撮影した写真の証拠の提出や、書面での反論、当事者の審尋(当事者が裁判所に出頭して、裁判所が当事者の話を聞く手続)等を行って決めることになります。
(3)一方当事者に有責であるとの疑いがあるという程度では、婚姻費用の請求は否定されない。
参考
松本哲泓「〔改訂版〕婚姻費用・養育費の算定-裁判官の視点にみる算定の実務-」37頁以下、40頁以下
婚姻費用の審判では迅速性が求められているので、有責性の最終的な判断は離婚訴訟で行うべきであり、その制裁も財産分与の計算で配慮されるべきである、と考えるからである。 参考 松本哲泓「〔改訂版〕婚姻費用・養育費の算定-裁判官の視点にみる算定の実務-」40頁、41頁 |
東京高裁令和6年11月19日
(1)離婚訴訟後に、夫が妻に対し婚姻費用の請求をした。離婚訴訟については離婚請求が認められて、夫が有責配偶者であると認定がされた。その後、離婚までの婚姻費用が問題となるところ、夫が有責配偶者であること、夫が生活費を交付していないこと、同居期間中妻が生活に必要な費用の大部分を負担していたこと、別居後妻が子どもの生活費を負担し、夫が居住するマンションの住宅ローンを負担していたこと、夫は妻名義のマンションに居住し住居費を負担していないこと等を考慮して、離婚訴訟後に、夫が妻に対し婚姻費用の請求をしたが、同請求は信義則あるいは権利濫用として許されないとされた。
(2)本件では、離婚訴訟が提起されており、その判決により有責配偶者であるとの判断がされていた事案である。
判例タイムズ1530号105頁