【和解】「本件に関し」という和解条項
2025/04/13 更新
このページを印刷「本件に関し」という和解条項

和解文では、以下のような和解をすることがあります。
和解文の例
原告及び被告は、原告と被告との間には、本件に関し、本和解条項に定めるもののほか、何らの債権債務のないこととを相互に確認する

この文言の意味について、ある事案を例に説明しましょう。

和解文に「本件に関し」を入れると、どういうことになるのでしょうか?
事案
AとBは兄弟である。父が亡くなったが、父名義の土地について、AとBは遺産分割の協議をしていない。
AはBに対し500万円を貸しており、AはBに対し500万円を返してほしい、と訴訟をした。
和解案
訴訟上の和解の例
和解案 1 Bは、Aに対し、本件解決金として50万円の支払義務があることを認める」。 2 Aは、その余の請求を放棄する。 4 A及びBは、AとBとの間には、本件に関し、この和解条項に定めるもののほかに、何らの債権債務がないことを相互に確認する。 |
解説
(1)「本件に関し」を入れる
「本件に関し」が入れば、「訴訟となった本件についてのみ解決した。」という意味になりますので、「AさんとBさんの間で、遺産について別の争いがある」ことは、別に紛争が残っている、という意味になります。
A及びBは、AとBとの間には、本件に関し、この和解条項に定めるもののほかに、何らの債権債務がないことを相互に確認する。 |
(2)「本件に関し」を入れない
「本件に関し」を入れない場合には、AさんとBさんの間の紛争を全て解決したという意味になります。
つまり、「AさんとBさんの間で、遺産について別の争いがあるが、これも解決済みです。」という意味になります。
A及びBは、AとBとの間には、この和解条項に定めるもののほかに、何らの債権債務がないことを相互に確認する。 |
(3)「その余の請求の放棄」の意味
(1)「Aは、その余の請求を放棄する。」というのは 「訴訟となった本件について、和解条項で記載されている請求を除いて、その余の請求を放棄する」という意味になります。
例えば、訴訟となっている件で、利息の請求が可能だったとしても、その利息の請求は放棄する、という意味になります。
「本件に関し」という文言を入れるメリット・デメリット
(1)紛争解決の観点からは、「本件に関し」という文言を入れないのがベストです。
「和解条項に定めた権利義務が全てであること」「これを履行すれば当事者間で債権債務はないこと」「それ以外の紛争はないこと」が確認できます。
(2)しかし、「父名義の土地について、AとBは遺産分割の協議をしていない。」これを別途話し合うべき場合には、本件に関しという文言を入れるか、それとも、「父名義の土地について、AとBは真摯に遺産分割の協議をする。」との条項を入れるのが通常です。
(3)「全ての紛争を解決したい」という当事者(つまり、「本件に関し」と入れないでほしいと当事者)と、「別件についても、言いたいことがある(請求権がある)」と考える他方当事者(「本件について」という文言を入れたい、当事者)で、意見が対立することがあります。
(4)紛争解決の観点からは、「本件に関し」という文言を入れないのがベストです。裁判官は、まずはこちらを勧めます。
しかし、(和解が決裂し)判決を出す場合には、訴訟(審判)の対象となっている権利義務(本件では、500万円の借金問題)についてしか判断されません。したがって、「本件に関し」という文言を入れたくないという理由で和解を拒否しても、判決が出ると、「本件に関し」という文言が入るのと同じことになります。
したがって、「別件についても、言いたいことがある(請求権がある)」と、どちらかの一方当事者が考える場合には、「本件に関し」という文言を入れる形で和解をすることになるでしょう。
「本件に関し」という文言を入れるケース
「別件についても、言いたいことがある(請求権がある)」と、どちらかの一方当事者が考える場合には、「本件に関し」という文言を入れる形で和解をすることになります。