判例(映画の脚本原稿(の作成者)には、同一性保持権(著作法2条)が成立し、原稿の変更には作成者の同意が必要となる。映画化の過程で作成者の同意を得ていなかった場合には、同一性保持権の侵害となる。もっとも、原稿を改変した脚本家は、映画のプロデューサーから指示を受けて変更案を作成したにすぎず、最終原稿をを決定したのも別人であるから、原稿を改変した脚本家には違法はない。)
2025/10/05 更新
このページを印刷同一性保持権
(1)著作権は、著作者人格権の一つとして、その著作物の同一性を保持する権利、著作物の本質的特徴を意に反して、改変されない権利です。
(2)同一性保持権は、創作的表現に変更が加えられた場合に成立します。
(3)逆に、本質的特徴が一切残っていない場合には、同一性保持権は成立しません。
参考
清水節ら編「Q&A 著作権の知識100問」171頁
大阪高判令和7年2月27日
1 事案
(1)映画の脚本原稿を、Xが作成した。
(2)Xが作成した原稿案について、映画のプロデューサーから訂正の要望が出た。
(3)訂正の指示を受けたのは、Yであった。
(4)Yは、Xに訂正箇所の情報共有をしていたが、その情報共有に不十分な部分があった。
(5)Xが出席できない場で、Yの作成した原稿案が映画原稿の最終案として決まった。
(6)Xは、Yの作成した原稿案について納得できない部分があり、関係者に訂正を求めたが聞き入れられなかった。
(7)Xは、Yに対し同一性保持権(著作法2条)違反として慰謝料請求をする訴訟を提起した。
2 判決
(1)映画の脚本原稿(の作成者)には、同一性保持権(著作法2条)が成立し、原稿の変更には作成者の同意が必要となる。
(2)映画化の過程で作成者であるXの同意を得ていなかったものであり、同一性保持権の侵害が成立する。
(3)もっとも、原稿を改変した脚本家Yは、映画のプロデューサーから指示を受けて変更案を作成したにすぎず、最終原稿をを決定したのも別人であるから、原稿を改変した脚本家Yには違法はない。
判例タイムズ1535号180頁