Q 書証についての証拠意見について、どのように考えるのか、教えてください。
2025/10/25 更新
伝聞証拠禁止の原則
1 公判中心主義
(1)公判中心主義は、刑事訴訟において、裁判官は法廷で行われた証拠調べに基づいて判断しなければならないとする考え方です。
(2)刑事事件の場合には、警察が被疑者の取り調べをして、被疑者が罪を認めた自白調書等を証拠収集しています。
仮に、刑事裁判のときに、裁判所が書証(証人が被疑者の犯行を目撃した内容の調書、防犯カメラの映像、被告人が自白した調書)を見てしまうとどうなるでしょうか。
そうなると、裁判官が、裁判をする前に、すべての証拠の取り調べが終わってしまい、実際の裁判が形骸化する、というリスクがあります。
2 証拠意見
(1)刑事裁判では、「伝聞証拠については、その作成者が法廷で証言することが原則とすること」「伝聞証拠については相手方の同意のない限り、証拠とできないのが原則とすること」になっています。
(2)当事者(検察官、弁護人)は、証拠提出したい書証を相手方に見せます。
相手方が同意した書証はそのまま証拠として提出できます。
証拠意見
(1)証拠意見については、以下のように考えて対応します。
(2)証拠意見で、不同意としても、その作成者は法廷で書証通りの内容を証言すると予想されます。
反対尋問で、その証言がおかしいことを覆せない、もしくは、重要な争点ではないものは同意することになります。
客観的事実についての報告書
犯行現場についての実況見分調書
(1)例えば、万引きされた犯行現場の様子を警察官が報告した報告書だとします。
実務的には、店内の写真や、店の地図、店内の見取り図等が記載されています。
(2)警察官が、店内の様子を見ます。見た内容を立証するために、報告しており、伝聞証拠となります。
(3)客観的な事実を、分かりやすく表現するための証拠であり、弁護人としては証拠として同意してよいでしょう。
ビデオカメラの調査報告書
(1)例えば、逃げる犯人の様子が複数のビデオカメラに写っており、警察官が、複数のカメラの映像をまとめた報告書を作成した。
(2)警察官が見たビデオの内容をまとめたものであり、伝聞証拠となります。
(3)客観的な事実を、分かりやすく表現するための証拠であり、弁護人としては証拠として同意してよいでしょう。
覚醒剤であることの鑑定書
(1)例えば、バックから出てきた粉を解析して、覚醒剤反応が出たという様子をまとめた報告書です。
(2)鑑定人を見た内容をまとめた文書であり、伝聞証拠となります。
(3)客観的な事実を、分かりやすく表現するための証拠であり、弁護人としては証拠として同意してよいでしょう。
被害者、第三者の供述
被害者の取調べ調書
(1)被害者が、事件当時の話を警察官に説明し、警察官が、そのとき聞いた話をまとめた報告書となります。
(2)①まず、被害者が、過去に体験した話を思い出して話しており、伝聞証拠です。
②次に、警察官が、被害者から聞いた話をまとめて、文章にしており、再伝聞です。
なお、②については、警察官が被害者に対し、内容に間違いか無いかをチェックするしてらうことで、②の過程の伝聞性は排除できます。したがって、再伝聞ではなく、伝聞証拠として扱ってよいことになります。
(3)特に、①の被害者の証言が正しいのかを確かめる必要があり、否認事件では、弁護人は不同意にすべき証拠です。
もっとも、反対尋問で、その証言がおかしいことを覆せない、もしくは、重要な争点ではないものは同意することになります。
犯行再現の実況見分調書
(1)例えば、包丁で脅された様子を「被害者と警察官」が二人で再現し、その様子を別の警察官が写真にとって報告した報告書だとします。
実務的には、加害者役の警察官と、被害者が一緒に写真を写して、これをまとめたものが作られます。
(2)①まず、被害者が、過去に体験した話を思い出して、体で表現しているので、伝聞証拠です。
②次に、警察官が、被害者が再現した様子そのときの様子を文章にしてまとめているので、再伝聞です。
(3)被害者の取調べ調書と同様に考えます。
専門的な判断であるが、その判断過程が要確認
死因の鑑定書
(1)被害者の死体を解剖し、その結果、医師が判断した診断結果が記載された報告書です。
(2)医師が見た、聞いた内容をまとめた文書であり、伝聞証拠となります。
(3)死因の鑑定では、「包丁が刺さって死亡した。」という鑑定結果は、「包丁の傷が死亡原因になりえること」と「他に死亡原因がないこと」の二つの判断過程から、推論されます。
例えば、Aだから、Bだと判断した、という推論が正しいのか。仮に、どんな特段の事情があれば、推定が覆るのか、覆す事情がないのか、を法廷で確かめる必要が出てきます。
もっとも、反対尋問で、その証言がおかしいことを覆せない、もしくは、重要な争点ではないものは同意することになります。
精神鑑定の鑑定書
(1)被告人との話を聞いて、その結果、医師が判断した診断結果が記載された報告書です。
(2)医師が見た、聞いた内容をまとめた文書であり、伝聞証拠となります。
(3)どこまでが客観的なものなのか確認する必要があります。
被告人の取調べ調書
1 刑事訴訟法の規定
(1)警察官等が、被告人を取り調べた調書については、刑事訴訟法322条により、証拠とすることができる、とされています。刑事訴訟法は、「被告人に不利益な事実の承認を内容とするもの」であるときと限定していますが、弁護人として不同意にしたいのは正にこの部分です。したがって、刑事訴訟法では、被告人を取り調べた調書については、証拠とすることを認めているようなものです。
(2)これは、被告人は、法廷にて弁解も含めて、自分の意見を述べることができるから、と説明されています。
| 刑事訴訟法 第322条 1項 被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第三百十九条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。 2項 被告人の公判準備又は公判期日における供述を録取した書面は、その供述が任意にされたものであると認めるときに限り、これを証拠とすることができる |
2 証拠意見
弁護人としては、証拠意見で不同意としても意味がないので、同意するのが一般的ではないでしょうか。
3 運用
(1)公判中心主義の考え方からして、(同意された)被告人の取調べ調書は、他の証拠調べが終わってから取り調べをします。
被害者の証言が終わり、その後に、被告人の法廷での供述が終わり、その後に、被告人の取調べ調書の提出が行われます。
(2)被告人の法廷での供述において、反対尋問にて、検察官が、「被告人は、警察官のと調べては〇〇と述べていませんでしたか。」と質問します。
これに対して、被告人が弁解する(回答する。)ということが行われます。
(3)実際の法廷で、被告人が「そのようなことを言ったのか記憶にない。」と供述するのではなく、被告人が「□□と言ったことは事実であるが、今は〇〇が正しい。なぜなら、△△だから。」と説明するのであれば、被告人の取り調べ調書を提出を認める必要がなくなります。
したがって、裁判所の運用において、裁判官が「被告人質問で、心証がとれたので、被告人の取調べ調書の必要性がないと思う。」と発言し、検察官が「被告人の取調べ調書の証拠調べ請求を撤回します。」と回答することがあります。
この場合には、結局、被告人の取り調べ調書は、証拠にならない(裁判所に提出されない)、ということになります。
一部不同意
(1)証拠意見については、以下のように一部不同意とすることもあります。
(2)例えば、被害者の供述調書で、「被告人に重い処罰を求めたい。」という文言があるとします。
しかし、すでに被害者と示談をしており、被害者の心境に変化がある場合には、この部分を不同意をします。
(3)具体的には以下のように記載します。
| 甲4号証 甲4号証の2頁目の3行から5行は不同意とします。 甲4号証について、上記を除いて同意します。 |






