判例(人身傷害保険が被害者に保険を支払い、その後に自賠責保険から回収した。しかし、その金額が、本来、(過失割合を考慮すると)被害者が請求できる金額よりも多い場合には、任意保険は、その金額について人身傷害保険に不当利得請求できる。)
2025/10/01 更新
このページを印刷人身傷害保険
人身傷害保険は、被保険者が交通事故によって身体に障害を負った場合に、被保険者の過失を問わずに一定額が支払われる保険です。
過失相殺がある場合
(1)例 損害(裁判が認めた原告の損害)を100万円、原告、被告の過失割合を3対7、受け取った人身傷害保険の保険金が40万円だった場合を考えます。
この場合に、原告(被害者)が被告に対して請求できる金額は以下のとおりとなります。
(2)過失相殺がある場合については考え方がいろいろとあります。判例(最判平成24年2月20日)は裁判基準差額説を採用しています。この考え方を示したのは、図3です。
(3)図2のように、裁判基準差額説では、「人身傷害保険の保険金40万円から、被害者側である原告の過失割合部分30万円を控除し、差額10万円について、(人身傷害保険を支払った)保険会社は損害賠償請求権を取得する。」「また、その差額10万円について、原告の請求額が減額する。」と考えます。
図2

参考
大島眞一「交通事故事件の実務-裁判官の視点」166頁以下
過失相殺がある場合で、かつ、人身傷害保険の保険会社が自賠責から損害の一部を回収した場合
(1)例 損害(裁判が認めた原告の損害)を100万円、原告、被告の過失割合を3対7、受け取った人身傷害保険の保険金が40万円だった場合で、かつ、人身傷害保険の保険会社が、被保険者との約款に基づいて自賠責から20万円を回収した場合はどうなるでしょうか。
加えて、任意保険会社が被害者に対し、損害100万円から人身傷害保険金40万を控除した60万円を支払ったとします。
(2)人傷害保険の保険会社と、被害者(交通事故の原告)との間で、「自賠責保険の支払額を含めて一括して支払う」「自賠責保険の保険会社は、自賠責保険から自賠責保険の支払分を受領する。」という合意をすることがあります。
例えば、人身傷害保険の保険会社が、被保険者との約款に基づいて自賠責から20万円を回収するような場合を想定してみましょう。
(3)任意保険会社は、自賠責から保険金を受け取った人身傷害保険会社に対し、以下の金額について不当利得の請求ができまる(東京高判例令和6年11月12日 判例タイムス1535号144頁)。
不当利得 =人身傷害保険が自賠責保険から受け取った金額-(人身傷害保険の支払額-原告の過失部分) 20万円 ー(40万円-30万円) 原告の過失部分=損害全額 - 損害全額×過失割合 100万円 - 100万円×0.7 |

参考
東京高判例令和6年11月12日(判例タイムス1535号144頁)