判例(入社1年目の社員が自殺したところ、精神障害の発症とこれによる自殺について、業務起因性が認められた。)
2025/05/30 更新
名古屋高裁令和5年4月25日
1 概要
(1)入社1年目の労働者(以下、「本件労働者」という。)が自殺したところ、精神障害の発症とこれによる自殺について、業務起因性が認められた。
(2)本件労働者の母親が、本件労働者が精神障害を発症したことと、これによる自殺について、業務起因性が認められるとして、遺族補償一時金を請求した。
(3)労働基準監督署は、不支給の決定をした。本件労働者の母親が不支給の決定の取消訴訟を提起した。
2 精神障害の労災認定について
(1)精神障害の労災認定について厚生労働省の認定基準がある。
(2)同基準を参考に、平均的労働者を基準として、業務の心理的ストレスが「強」と評価される場合には、精神障害の発症やこれによる自殺について相当因果関係が認められる。
3 精神的負荷
(1)平常時から、上司は、本件労働者に対し「お前なんか要らん」「そんなんもできひんのに大卒なのか」等の人格を否定するような発言をしており、心理的負荷は「中」に該当する。
(2)さらに、丙案件は、新人であった本件労働者には知識も経験もない案件であり、本件労働者にとって困難な案件であった。本件労働者に対し、「どのように書類を作ったらよいのか;適切な指導もなく、書類を作ったらダメ出しされ、、かつ、相談する人もいない状態で取り組まなければならなかったこともあり、丙案件での心理的負荷は「強い」に該当する。
(3)これらを総合的に考えると、全体的評価としても業務の心理的負荷は「強」に該当する。
(4)したがって、入社1年目の社員が自殺したところ、精神障害の発症とこれによる自殺について、業務起因性が認められる。
(5)よっって、労働基準監督署の不支給の決定を取り消す、と判決した。
名古屋高裁令和5年4月25日
判例タイムズ1531号87頁