判例(就業規則による給与の減額が不当であるとされた事例)
2025/05/17 更新
就業規則の変更による賃金の減額
(1) 評価制度を就業規則として導入し、従業員の給与を変更するには以下の要件を満たすことが必要です(労働契約法10条)。
① 賃金減額前に就業規則の変更手続をしたこと。
② 就業規則の変更に合理的理由があること。
③賃料減額の根拠となる評価の規定があること。
④その規定に基づいて給与が減額されたこと。
(2) 問題社員の対策として、給与の減額を検討する場合には、この手続を経るのが鉄則です。
東京地裁令和5年6月9日労判1306号42頁
1 事例
(1)就業規則の一部である管理職降給規定2条は、職務または職務レベルの変更により給与レンジが下方に位置する新職務に移動した場合には、降給を実施することがある。」と記載されていた。
(2)社内のイントラネットに、給与を減額する場合の計算式が掲載されていた。
(3)平成31年、Xは入社した。
(4)会社は、Xに年収の25%減額か、給与半月分を解決金とする退職を求めた。
(5)Xがこれを拒否したために、会社は、上記の計算式によれば、総額年952万円であるところ、918万円に給与を減額した。
2 判決
(1)管理職降給規定2条を素直に読めば、(下方に移動した)新給与レンジで給与が決まると読むべきであるから、「給与を減額する場合の計算式」がその内容を詳しく記載したものと理解できないし、「給与を減額する場合の計算式」は、労働基準監督署に提出されおらず、就業規則の一部とは扱えない。
(2)「給与を減額する場合の計算式」が周知されていっとしても、給与の減額方法の合意があるとはいえない。
(3)Xの給与額の減額は、「給与を減額する場合の計算式」で定められた金額よりもさらに下がっており、給与額の減額が、同計算式にしたがったものではない。
(4)以上より、本件の就業規則に基づく給与の減額は違法である。
解説
(1)「給与を減額する場合の計算式」が周知されていたが、同計算式は、就業規則に定める給与の減額の定めにあたらないとされました。
(2)加えて、Xの給与額の減額は、「給与を減額する場合の計算式」で定められた金額よりもさらに下がっており、給与額の減額が、同計算式に従ったものではない。とされた判例です。
参考
ビジネスガイド2025年6月号96頁