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労使紛争

判例(年俸制の減額が不当である、固定残業の減額が不当である、とされた事例)

2024/02/18 更新

年俸制と減額

(1)年俸制は、従業員の成績等に応じて、毎年、給与額を変更・決定する賃金制度です。
(2)年俸制の場合、給与額の算定基準を合意しているなど、給与の決定方法が定まっていれば、次年度の給与額を下げることができます。会社型の主観的な判断で、給与を決定することはできません。したがって、給与の決定(減額)についてどのようなプロセス(設計を含む)が必要なのかが重要です。

固定残業代の減額

(1)固定残業は残業です。残業が減れば減額する合理的根拠があることになります。
(2)しかし、固定残業代の合意は、「残業の有無に関わらず定額を支払う。」という合意です。労働契約において、支払額の総額としての合意がされており、基本給の減額と同様に取り扱われるべきです。

給与の減額と慰謝料

(1)不当に給与を減額されたことを原因として、自ら退職した場合には、慰謝料請求が認められるか。
(2)給与の減額については、未払差額賃金請求として処理されることから、高額の慰謝料請求を認めることはあまりありません。

判例(東京地裁令和3年11月9日)

事例

(1) 賃金については年俸制がとられていた。
(2) 就業規則には以下の記載があった。
 就業規則14条は、「年俸額は能力,実績,貢献度等を総合的に勘案し,社長決裁で決定する」と定めていた。
 就業規則29条は、「年俸給与適用者の給与改定は原則として毎年5月に行う。」と定めていた。
(3)年俸制の運用としては、人事考課のための査定面談が毎年3月下旬か4月上旬頃に行われていた。
 前年度の業績等の査定に基づき、会社が年俸額を改定するか否かを決定し、改定しない場合には次年度の年俸は前年度の年俸額と同額に据え置かれ、また、改定することにした場合には、会社から労働者に次年度の年俸額を提示し、労働者がこれに同意しなかった場合には、最終的には本件賃金規程14条及び29条に基づき被告会社において相当な年俸額を決定する仕組みが採られていた。
(4)入社後2年目の年俸に関しては、2年目の受注目標額を設定し、期末に従業員に入社1年目の個人業績に関するレポートを作成・提出させた上で、これらを基に1年目の業績等に係る査定面談が行われており、年俸額決定のための相当な手続がされていた。
2年目も1年目と同じ年俸額が据え置かれており、そのことについて従業員は、異議を申し立てなかった。
(5)3年目の年俸の改定の際には、会社は、そもそも期初に業績評価の基準とされるべき従業員の受注目標を設定しておらず、また、査定面談においては、従業員があらかじめ提出していた資料に記載していた2年目の個人業績に関し、一方的に従業員の業績とは認められないと告げる一方、その理由や根拠については具体的に説明せず、さらに、従業員が、賃金の減額を受け入れられないと明確に異議を述べたにもかかわらず,その後に従業員からら意見を聴取することも,賃金の減額の理由について具体的に説明することもしなかった。
(6)4年目も、従業員の給与は減額された。
   同年、従業員は、退職した。

判決(東京地裁令和3年11月9日)

1 年俸制
(1)本件労働契約の解釈については、就業規則の定めと実際の年俸制度の運用を総合考慮して、「前年度の業績等の査定に基づき被告会社が年俸額を改定するか否かを決定し,改定しない場合には次年度の年俸は前年度の年俸額と同額に据え置かれ、また、改定することにした場合には,被告会社から労働者に次年度の年俸額を提示し、労働者がこれに同意しなかった場合には,最終的には本件賃金規程14条及び29条に基づき会社において相当な年俸額を決定する仕組みが採られていた。」と認定した。
(2)労働契約において当事者間に次年度の年俸額の合意が成立しなかった場合に、就業規則等により、会社が一方的に年俸額を決定できることや、それらの規定において年俸額決定のための手続が記載されていないこと、不服申立手続等が明示的に定められていなかったことについては、「それだけで使用者に対する年俸額決定権限の付与が当然に無効になるとは解されない。もっとも,労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結又は変更すべきものであるから、年俸額決定のための合理的な手続を欠き、会社が恣意的に年俸額を決定することができるような制度となっている場合には,就業規則等で定められた年俸額決定権限の会社への付与は,合理的な労働条件とは認められず、無効になる。
(3)本件会社では、会社においては年俸の決定において、相応の客観性・合理性のある手続をとる仕組みが採られていたことが窺われ、不合理な基準による査定がされていたことも窺われない。したがって,本件では、会社に最終的な年俸額決定権限を付与した本件賃金規程の定めが当然に無効であるとまでは認められない。
(4)本件賃金が減額された3年目の年俸の改定の際には、会社は、そもそも期初に業績評価の基準とされるべき従業員の受注目標を設定しておらず、また、査定面談においては、従業員があらかじめ提出していた資料に記載していた2年目の個人業績に関し、一方的に従業員の業績とは認められないと告げる一方、その理由や根拠については具体的に説明せず、さらに、従業員が、賃金の減額を受け入れられないと明確に異議を述べたにもかかわらず,その後に従業員からら意見を聴取することも,賃金の減額の理由について具体的に説明することもしなかった。
(5)したがって,本件賃金の減額は、会社がその与えられた年俸額決定権限を濫用して行ったものと認められるから、違法、無効である。

 (以下、省略)

2 固定残業代の減額

 (省略)

3 給与の減額と慰謝料
(1)会社は、不当な評価・査定に基づいて年俸額決定権限を濫用して賃金を減額し、違法な本件配転命令によって精神的な苦痛を伴う不合理な待遇を続け、さらに、再度、違法・無効な賃金減額を行っている。これによって、従業員は、会社に在籍し続けることが困難となり、退職を余儀なくされた。
(2)精神的苦痛に対する慰謝料は60万円と認め,また,これと相当因果関係のある弁護士費用の額は6万円と認めるのが相当である。

判例(東京地裁令和4年2月8日判決)

事例
 上記について、従業員は、固定残業代(みなし労働賃金)の減額等、第一審判決が認められなかった部分、その他について控訴した。

判決(東京地裁令和4年2月8日判決)

1 年俸制
 本件賃金の減額全ては、会社がその与えられた年俸額決定権限を濫用して行ったものと認められるから、違法、無効である。

2 固定残業代の減額
(1)みなし手当が時間外労働等の対価であること(固定残業であること)を十分説明して従業員と合意したという経過は何ら存在しない。
 本件みなし手当は割増賃金としての時間外労働等との対価性を欠いており、固定残業代と認定することはできない。
(2)仮に本件みなし手当が固定残業代に当たるとしても、会社の都合でが一方的に変更できることはできない。
 本件労働契約における賃金は、年俸であって、年単位で労使当事者が合意した金額が幾らかが重要な要素である。年俸における固定残業代は、実働時間が想定された時間外労働時間等を下回った場合でも、使用者は固定残業代として合意をした金額を賃金として支払うことが労働契約上の義務となっている。
(3)仮に、固定残業代の合意が成立するとしても、本件では固定残業手当も年俸総額の一部となっており、年俸総額の減額として適法な手続がとられておらず、その減額は違法である

3 給与の減額と慰謝料
(1) 第一審では、精神的苦痛に対する慰謝料は60万円と認め,また,これと相当因果関係のある弁護士費用の額は6万円を認めげいる。
(2)会社の行為によって従業員が退職を余儀なくさせたことで被らせた精神的苦痛に対しては、これを60万円と評価した原審(第一審)の認定に不合理なところがあるとは認められない。

参考

 ビジネスガイド2024年2月号92頁

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