【定年後の再雇用】長澤運輸事件(最判平成30年6月1日)
2023/07/30 更新
事案
会社では、60歳の定年が定められていた。
定年退職前は無期雇用であったが、定年退職後に1年間の期限付き再雇用された。
再雇用された社員は、定年退職前より同じ業務をしていた。
再雇用後の歩合給等は、定年退職前より2%から12%下がるものになった。
判決
(1)定年退職後に有期雇用で再雇用された社員が、従前とじ業務をしているのに、無期雇用契約と有期雇用労働者の労働条件の差が不合理であるとして、その差額相当額を損害として不法行為に基づく損害賠償請求等を求めました。
(2)本判決は、以下のように判断しています。
(3)有期契約労働者が、定年退職後に再雇用された者であることは、労働条件の差を合理的だと考えるべき事情と考慮される。
(3)上記の事情のもとでは、無期雇用契約と有期雇用労働者の労働条件の差が不合理だとは判断されない。
最判平成30年6月1日
判例タイムズ1453号47頁
前提知識
高齢者雇用安定法
高年齢者雇用安定法は、会社に以下の対応を義務付けています。
(1)定年を60歳未満としてはならない。
(2)①②③のいずれかの措置をとらなければならない。
①65歳まで定年を延長すること
②定年を撤廃すること。
③65歳までの雇用継続制度を設けこと。
65歳までの雇用継続制度
(1)多くの企業では、65歳までの雇用継続制度が導入されています。
(2)65歳までの雇用継続は会社の義務です。しかし、会社が従業員に対し、退職後の雇用条件を具体的に提案しないまま、60歳定年を過ぎてしまった場合、自動的に従前の労働条件が引き継がれるものではありません。
(3)イメージで言えば、会社は従業員に対し、定年後の労働条件について、合理的な労働条件を提案する義務があると理解すればよいと思います。
高齢者雇用の実務
(1)高齢者は年々体力が落ちていきます。体力等を考慮して毎年の業務内容を見直す必要があります。そこで、1年更新の有期雇用契約を締結することが多いです。
(2)高齢者は若者に比べれば柔軟性に劣り、未経験の分野は苦手であるともいわれます。
そのため、再雇用後も、定年退職前と同じ業務をお願いすることが多いです。
(3)賃金については従前と同様にする場合もあります。また、定年後は、年金が支給されることもあって金額を下げることもあります。
本件の問題
本件では、賃金を下げたために、定年退職後に有期雇用で再雇用された社員が、従前と同じ業務をしているのに、無期雇用契約と有期雇用労働者の労働条件の差が不合理であるとして、その差額相当額を損害として不法行為に基づく損害賠償請求等を求めました。
パータイム・有期雇用労働法
(1)パータイム・有期雇用労働法では、パート・有期労働者と、無期のフルタイム労働者との間に不合理な待遇差を禁止しています(同法8条、9条)。
(2)同一の業務をしているのであれば、賃金を含めたその他の労働条件が同一である必要があります(パータイム・有期雇用労働法9条)。
「同一労働同一賃金ガイドライン」のガイドライン
(1)「同一労働同一賃金ガイドライン」は、以下のように記載されています。
(2)定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者についても、短時間・有期雇用労働法の適用を受けます。
(3)有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることは、通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理と認められるか否かを判断するに当たり、労働条件の差を合理的だと考えるべき事情として考慮されます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html
解説
(1)かつては労働契約法20条の問題でしたが、現在では、パータイム・有期雇用労働法9条の問題となっています。
(2)本判決は、定年後の基本給については大きく下がったとしても合理的であると判断される余地が大きい、ということです。しかし、ガイドラインが従前説明していた内容以上の説明をしたものではありません。
(3)会社がどのような差を設けるについて裁量があります。したがって、ある程度の差を設けることは許されると思いますが、どの程度まで許されるかは今後の判例の蓄積を待つことになります。