判例(総合職にのみ社宅制度が認められていることについて、総合職がほとんど男性であったともあって、違法な間接差別であると判断された。
2025/04/13 更新
性別に関する間接差別
(1)雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下、「均等法」という)は、直接に男女によって差が設定されていなくても、事実上の男に有利に、女性に有利な制度なっていれば、これも、間接差別として違法と成るとしています(7条)。
(2)例えば、昇進の上限に40時間以上の残業ができることを要件とすることが考えられます。育児等がある女性にって残業はしにくく、実質的に女性への差別的取扱いになるからです。
均等法 均等法5条 (性別を理由とする差別の禁止) 事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。 均等法6条 事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。 一 労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練 二 住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの 三 労働者の職種及び雇用形態の変更 四 退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新 均等法7条(性別以外の事由を要件とする措置) 事業主は、募集及び採用並びに前条各号に掲げる事項に関する措置であつて労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない。 |
(3)性別に関する間接差別として禁止される内容について、均等法7条は、厚生労働省令で定めるものとしています。
同施行規則では、以下のように定めれれていました。
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法施行規則 2条(実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置) 法第7条の厚生労働省令で定める措置は、次のとおりとする。 一 労働者の募集又は採用に関する措置であつて、労働者の身長、体重又は体力に関する事由を要件とするもの 二 労働者の募集若しくは採用、昇進又は職種の変更に関する措置であつて、労働者の住居の移転を伴う配置転換に応じることができることを要件とするもの 三 労働者の昇進に関する措置であつて、労働者が勤務する事業場と異なる事業場に配置転換された経験があることを要件とするもの |
なお、厚生労働省が出した「労働者に対する 性別を理由とする差別の禁止等に関する規 定に定める事項に関し、 事業主が適切に対 処するための指針」では「雇用の分野における性別に関する間接差別とは、①性別以外の事由を要件とする措置であるが、②他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与え、かつ、③その差について合理的な理由がないものをいう」と定義されています。
均等法施行規則2条は、均等法7条の内容を明確化したものではありましたが、同法に該当しない事案であっても、性別に関する間接差別に該当するものであれば、均等法7条に該当しない場合であっても、民法90条もしくは不法行為による法の救済を受けれるとされていました。
東京地判令和 6年5月13日 労判1314号5頁
事案
(1)会社は、東京都の本社のほか、全国3カ所に 営業所を有している。
(2)総合職は、異動による就業場所に変更がある。一般職は就労場所の異動がないとされていた。
(3)総合職には社宅制度があった。
会社は、当初、異動命令など、会社都合による場合にのみ、社宅を利用できると定めていた。
しかし、平成23年7月からは自己都合 (結婚や親元からの独立による引越し)の場合 にも、総合職は社宅制度を利用できるとしてきた。
(4)総合職には、転勤を経験した者もいるが、一度も転勤を経験していない総合職も相当数存在し、異動もないのに、社宅制度を利用していた。
社宅制度を利用すると、家賃が7万2000円だとすると、会社が5万8000を負担してくれるために、一般職が利用できる住宅手当と比べると、月額で3万6000円の差が出るものとなっていた。
(5)例えば、設立時から令和2年4月までの期間において、総合職は34名で女性は1名だけ、一般職は7名で男性は1名だけでした。
(6)一般職の社員が、社宅制度に基づき差額の3万6000円の支給を求めた。
判決
(1)判決は、社宅制度の利用を総合職にのみ認め一般職に認めないことが均等法 7条の趣旨に反して違法であるとして、不法行為責任を認めました。
(2)判決は、社宅制度と住宅手当との差額323万円と慰謝料55万円を認めました。
解説
(1)均等法施行規則2条2号は、住居の利用について間接差別にあたると明言していませんでした。 均等法施工規則2条は、均等法7条 の禁止する「性別に関する間接差別」に該当することがあることが、明確になりました。
(2)次に、本件では、どのような事情があることから、「性別に関する間接差別」に該当すると認定されたのでしょうか。
社宅制度の恩恵を受ける総合職について、その男女比率において男性の割合が圧倒的に高 いこと、社宅制度を利用できる従業員とで きない従業員とで経済的恩恵の格差がかなり大きいこと、総合職における転勤の現実的可能性をや、転勤等等は無関係に社宅制度の適用を認める運用等に照らして、社宅制 度の利用を総合職に限定する合理性は認められないことから、間接差別に該当すると判示したものとなります。
参考
ビジネスガイド2014年12月号76頁以下
ビジネスガイド2025年5月号29頁以下