日本郵便事件(最判令和2年10月15日)
2024/04/29 更新
事案
(1)有期契約労働者と、(無期契約労働者である)正社員の業務(郵便業務)には差がありませんでした。
しかし、正社員には、夏期休暇・冬期休暇、年末年始勤務手当、病気休暇、扶養手当が支給されていましたが、有期契約労働者にはこれらの給与が支給されていませんでした。なお、各手当の内容は以下のような内容でした。
(2)夏期休暇は3日、冬期休暇は3日、特別に与えられる休日です。
(3)年末年始勤務手当は、12月29日から31日までは1日4000円、翌年1月1日から3日までは5000円が支給される。
(4)正社員の病気休暇は、私傷病により出勤できない場合に、少なくとも90日間まで有給休暇が与えられます。(有期契約労働者には、10日間の無休の休暇しか与えられない。)
(5)扶養手当は、扶養親族一人につき月額1500円から1万5800円が支給されていた。
判決
(1)個別の手当についてはその手当の趣旨から、パート・有期労働者に対し支給しないことが不合理な待遇差にあたるか判断するべきである。
(2)有期契約労働者と、(無期契約労働者である)正社員の業務には差がなく、夏期休暇・冬期休暇、年末年始勤務手当に差があるのは不合理である。
(3)有休の病気休暇の趣旨は、継続的な勤務が見込まれる社員に対し、生活を保障することで継続的な雇用を確保することにある。
したがって、有期契約労働者であっても、契約の更新を繰り返して相当に継続的な勤務が見込まれる場合には、有休の病気休暇を一切与えないことは、不合理である。
(4)扶養手当の趣旨は、継続的な勤務が見込まれる社員に対し、生活を保障することで継続的な雇用を確保することにある。
したがって、有期契約労働者であっても、契約の更新を繰り返して相当に継続的な勤務が見込まれる場合には、扶養手当を一切与えないことは、不合理である。
最判令和2年10月15日
判例タイムズ1483号55頁
前提知識
パータイム・有期雇用労働法
(1)パータイム・有期雇用労働法では、パート・有期労働者と、無期のフルタイム労働者との間に不合理な待遇差を禁止しています(同法8条、9条)。
(2)業務内容に差があり、かつ、労働条件差があるとしても、その差は業務内容の差に比例した差である必要があり、不合理な差別は許されません(パータイム・有期雇用労働8条)。。
本件の問題
(1)かつては労働契約法20条の問題でしたが、現在では、パータイム・有期雇用労働法8条の問題となっています。
(2)有期契約労働者が、(無期契約労働者である)正社員の業務には差があるとしても、無期契約労働者である)正社員と比べて、特定の手当の支給がないのが不合理であるとして、その差額相当額を損害として不法行為に基づく損害賠償請求等を求めました。
解説
(1)本判決は、個別の手当についてはその手当の趣旨から、パート・有期労働者に対し支給しないことが不合理な待遇差にあたるか判断するべきである、としました。
(2)本判決によれば、正社員に病気休暇や、扶養手当を与える場合には、勤務年数に応じて、有期契約労働者にもこれらを与える必要があります。会社に裁量が認められていますので、勤務年数に応じる形で与える場合には、ある程度の差を設けることは許されると思いますが、どの程度許されるかは今後の判例の蓄積を待つことになります。会社の広い裁量が認められると考えます。
契約を更新して5年を超えて雇用する場合には、相当に継続的な勤務が見込まれる場合にあたりますので、正社員と同一の基準で手当を支給する必要があるでしょう。
(3)有期契約労働者と、(無期契約労働者である)正社員の業務には差がないのであれば、業務の対価として支払われる手当に差を付けることは許されない、ということになります。