判例(労災保険の支給決定について、会社は争うことができない。)
2025/04/13 更新
最判令和6年7月4日
労災保険の支給決定について、会社は争うことができない。
最判令和6年7月4日
判例タイムズ1526号62頁
解説
1 労災保険の支給決定
(1)労災が起きれば、従業員は、労災保険の手続きができます。
(2)その後、労基が労災にあたるかを判断して、労災保険の支給決定をします。
2 現実的な問題
(1)従業員が、労災保険の支給決定では、損害を全て補填されていないとして、安全配慮義務違反を理由として、会社に対し損害賠償請求をすることがあります。
(2)この際には、従業員と会社との訴訟において、労災保険の支給決定の資料が提出されます。
(3)会社にとってみれば、労基が労災にあたると判断したことについて強い利害関係を持ちます。
3 原告適格
(1)業務労災の保険の支給決定は、国が当該従業員に労災保険を支給するものであり、会社は利害関係がありません。
(2)行政処分(業務労災の保険の支給決定)について第三者が争う権利を原告適格といいます。
(3)本判決では、 労災保険の支給決定について、会社は争うことができない(原告適格がない)、と判断されました。
4 補足
(1)労災保険については、メリット制が適用される事業主がおります。
(2)メリット制とは、労災事故の発生等により、労災保険の保険料がアップする仕組みです。
労災保険の一定業種については、労災防止へのインセンティグとして、メリット制が採用されています。
(3)本件でも、会社は、メリット制による不利益を受けるから、行政処分(業務労災の保険の支給決定)について利害関係を有する、と主張しました。
(4)通達(令和5年1月31日基発0131第2号 メリット制の対象となる特定事業主の労働保険料に関する訴訟における今後の対応について)では、事業主には、労働保険料(労災保険と雇用保険を含めて労働保険という。)については、労働保険料認定決定の取消訴訟ができるとされています。
会社は、同手続の中で、保険料を争うことができる。したがって、保険料の決定の前提となった「労災保険の支給決定」そのものを争う権利(原告適格)はないと、判断された、と理解ができます。
参考
ビジネスガイド2025年3月号80頁以下