判例(当該団体交渉について合意形成の余地がなくても、団体交渉に応じることが必要である)
2024/11/27 更新
団体交渉の誠実交渉義務
組合の団体交渉について、会社は適切に対応する義務があります。
不当労働行為
(1)労働組合法第7条は、正当な理由のない団体交渉の拒否(第2号)を不当労働行為として定めています。
(2)形式的に団体交渉に応じても、実質的に誠実な交渉を行わない場合も、正当な理由なく、団体交渉を拒否する場合にあたります。
都道府県労働委員会に対する不当労働行為の救済申立
(1)「不当労働行為がある。」と判断する場合には、労働組合は労働委員会に対する申立てができます。
(2)労働委員会が、不当労働行為の事実があると判断した場合には、会社に対して、復職、賃金差額支払い、組合運営への介入の禁止等といった救済命令を出すことになります。
事案
事実経緯
(1)平成25年から平成27年の間に、会社(正確には、大学)は、組合と(賃金引き下げを含む)給与制度の見直しについて複数回団体交渉をした。
(2)組合は、会社の財務情報の開示を求めたが、会社はこれを拒否した。
(3)平成27年、会社は見直し後の給与制度を実施した。
(4)平成27年、組合は、不当労働行為の救済を申し立てた。
(5)平成31年、労働委員会は、「会社の対応(財務情報の不開示)が不当労働行為にあたる。会社はこれを開示して誠実に団体交渉に応じる」ことを命じた。以下、本件命令という。
(6)平成31年、会社は、本件命令の取消訴訟を提起した。
第一審と控訴審
会社は見直し後の給与制度を実施しされており、いまさら団体交渉を誠実に行えと命じるのが現実的ではないとして、本件命令の取消を認めた。
令和2年5月26日 山形地裁
令和3年3月23日 仙台高裁
最判令和4年3月18日
(1)使用者(会社)が誠実交渉義務に違反する不当労働行為を行ったのであれば、当該団体交渉について合意形成が認められなくても、団体交渉をすることは可能であるから、不当労働行為に違反するかどうかを判断すべきである。
(2)会社の対応が、団体交渉の誠実交渉義務に違反するか、再度審理する必要があるとした。
最判令和4年3月18日
判例タイムズ1498号33頁
令和5年7月19日仙台高裁
(1)最高裁(最判令和4年3月18日)の判断を受けて、仙台高裁で、会社の対応が、団体交渉の誠実交渉義務に違反するか、再度審理することになった。
(2)仙台高裁は、「会社の対応(財務情報の不開示)が不当労働行為にあたる。」したがって、「会社はこれを開示して誠実に団体交渉に応じることを命じる労働委員会の決定は正当である」と判断した。
(3)したがって、仙台高裁は、本件命令の取消を求める会社の請求を棄却しました。
令和5年7月19日仙台高例
判例タイムズ1525号79頁