判例(社員が会社に損害を与えた場合に、会社は社員に対し会社の被った損害の10%を請求できる、とした)
2025/05/07 更新
社員が会社に損害を与えた場合
(1)社員が会社に損害を与えた場合、会社は従業員に対し損害賠償請求できるが、その額は信義則上相当な金額に制限される。
(2)最判昭和51年7月8日民集30巻7号689頁(茨城石炭商事事件)は、使用者責任が認められる事案で、会社が第三者に損害賠償した後に、会社が従業員に対しその額の4分の1を請求することを認めた判例であり、会社の従業員に対する請求は信義則上の制限を受けます。
東京高等令和6年5月22日
事案
会社は従業員にトラックを運転させていたところ、従業員は2度の事故を起こした。
(保険での賠償を考えないとすると、)会社は346万円の損害を受けた。
従業員の手取りは月額23万円から25万円であった。
会社は保険に加入して損害を回避することができた。(そして、一部保険による補償を受け取っている。)
2度の事故は、単純な自損事故である上、従業員に、著しい過失(例えば、酒気帯び運転や大幅な速度超過)は無かった。
判決
(1)(保険での賠償を考えないとすると、)会社は346万円の損害を受けたが、会社が請求できるのは、その10%の34万円であるとしました。
(2)会社は従業員に対し業務委託料40万円を支払っていないから、同額について弁済を受けているとの同じであるから、これ以上の請求は認められない。
解説
1 「損害」の割合であること
(1)原審は、会社の損害から受け取った保険金を充当して、その未払額の25%の支払いを従業員に命じました。
(2)原判決の判断には、保険の受領等事故後の事情によって賠償責任が左右されるので妥当でない。また、最判昭和51年7月8日民集30巻7号689頁(茨城石炭商事事件)も、会社の「損害」の4分の1を請求することを認めた判例であり、あくまで、会社と従業員の負担割合は「損害」との関係で判断されるべきだと批判されいます。
(3)本判決では、この点も是正されています。
2 直接の雇用関係がない場合と、信義則上の制限
(1)直接の雇用関係がない場合にも、最判昭和51年7月8日民集30巻7号689頁(茨城石炭商事事件)の考え方による信義則上の制限があるか。
(2)判例は、業務の執行について、直接かつ具体的な指示を受け、車両、工具、資材の使用を受けていた場合には、請負や孫請け等の関係でも、従業員に準じた関係にあるとして、信義則上の制限を認める(判例タイムズ1530号95頁)。
(3)本件では、2つの事件のうち一つについて、当時、会社の従業員ではなく、委託先の従業員に過ぎなかった。しかし、この場合であっても、会社から、業務の執行について、直接かつ具体的な指示を受け、車両、工具、資材の使用を受けており、信義則上の制限がされる、と判断されている。
東京高等令和6年5月22日
判例タイムズ1530号94頁