労働条件の不利益変更と労働者の同意(自由意志法理)
2025/01/29 更新
労働者の同意による給与の減額
賃金の減額の根拠としては、労働者の同意による給与の減額あります。。
労働者との合意による賃金の減額
(1)従業員と合意して、従業員の給与を減額するには以下の要件が必要です(労働契約法9条)。
① 労働者の自由な意思に基づいてなされたものと認める足りる「合理的理由の客観的存在」
② 従業員が賃金減額に合理したこと
(2)従業員の立場では、会社から減額の申し出をされると、承諾する旨の書面に署名するしかないという力関係が存在します。
最判平成28年2月19日民衆70巻2号123頁(山梨県民信用組合事件)は、退職金の支給基準を変更する合意の有効、無効が問題になった事案ですが、労働者の自由な意思に基づいてなされたものと認める足りる「合理的理由の客観的存在」が必要だと述べています。
② 労働者の自由な意思に基づいてなされたものと認める足りる「合理的理由の客観的存在」とは、具体的には、減額の合理的理由と、従業員と真摯に話し合った事実、が必要になります。
自由意思法理
(1)従業員の立場では、会社から給与の減額の申し出をされると、承諾する旨の書面に署名するしかないという力関係が存在します。
(2)したがって、労働条件の不利益変更については、労働者の同意が認定できるだけでなく、労働者の自由な意思に基づいてなされたものと認める足りる「合理的理由の客観的存在」が必要だとするのが、自由意志法理です。
給与の減額と自由意志法理
令和4年3月2日東京地判
給与の減額について、会社が一方的に決定し、従業員らに対しメールで周知しただけであり、不利益性を含む変更の内容について十分な情報提供や説明がされていないとして、自由意思による同意を否定し、変更を無効とされた。
令和4年6月27日大阪地判
減額された賃金について6年以上という長期間にわたって異議を述べていなかったことものの、減額を受け入れることを明らかにした行為は存在しないこと、給与減額も大きく、会社が、本件減額に先立ち、従業員に対し、事前に経営状況を明らかにする資料を示すなどして説明会を開催するなど、件減額の理由・必要性について、十分な情報を提供したことをうかがわせる事情もないとして、自由意思による同意を否定し、変更を無効とされた。
給与の減額については、自由意志法理が適用されて、労働者の同意が認定できるかだけでなく、情報提供や説明が十分だったのかが、重要視されています。
退職時と自由意志法理
平成31年1月22日東京地裁
退職金債権の放棄や、労働条件の変更などについての労働者の同意については、労働者は雇用主から求められるがままに不利益を受け入れる行為をせざるを得なくなるような状況に置かれることも少ないことから、「自由な意思と認められる合理的な理由」を検討して慎重に意思表示の存否を判断することが要請される(山梨県民信用組合事件判決に関する判例解説(法曹時報70巻1号317~321頁)参照)。
これに対し、退職届の提出という局面においては、労働者において明確に認識している場合が通常であり、上記各最高裁判決の判旨が直ちに妥当するとは解しがたい。
したがって、退職の場合には自由意志法理が適用さない。したがって、労働者の同意が認定できれば足りる、と考えられます。
参考
ビジネスガイド2024年9月号76頁以下。