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労使紛争

退職合意書(その1)

2023/04/04 更新

退職合意書

(1)従業員と退職時にトラブルになった場合、解決金を支払って解決することがあります。お金を支払う前に先に、合意書を締結します。
(2)以下の事項を確認した上で合意書を作成します。

退職合意書と雇用保険

(1)自己都合退職の場合には、退職届があればよく、退職合意書を作る必要はありません。
(2)しかし、雇用保険の退職理由を特別な理由にする場合には、ハロワークから合意書の提出を求められる場合があり、退職合意書の作成が必要です。

退職日、最終出勤日

(1)退職日

 退職日について話し合う必要があります。通常は、給与締め日を退職日とすることが多いでしょう。

(2)年次有給休暇

 年次有給休暇については、従業員の権利行使が必要になります。従業員が申し出ない限りは特にこれを認めなくても構いません。

 有給休暇が残っている場合には、最終出勤日と退職日を別々に分けます。例えば、「令和3年4月3日を最終出勤日とし、翌日以降は年次有給休暇を利用し、令和3年5月1日に退職します。」という形で取り決めをします。

退職合意書の文言

第〇条 退職日

乙は令和3年4月3日を最終出勤日とし、翌日以降は年次有給休暇を利用し、令和3年5月1日に甲を退職する。

退職理由と、助成金

雇用保険の退職理由によって、従業員が受け取る失業保険の額等が変わってきます。
雇用保険の離職理由によって、会社が利用している助成金に影響があるかが変わってきます。

会社としては、本件では、どのような退職理由がありえて、助成金にどのような影響があるかを確認する必要があります。

離職理由については、特定受給資格者、特定理由離職等の種別もあります。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000147318.pdf

会社と、従業員の利益を考慮しながら、雇用保険上の離職理由を検討します。

退職合意書の文言

第〇条 退職日、退職理由

1 乙は令和3年5月1日に甲を退職する。

2 上記の雇用保険の離職理由は退職勧奨とする。

退職理由と退職金

(1)退職金がある場合には、退職理由によって、退職金の金額が変わることがあります。

(2)退職金の規定の有無はチェックする必要があります。

退職勧奨

(1)退職勧奨は会社から退職してほしいと申し出て、従業員がこれを了承して成立する合意退職です。退職勧奨は会社都合による離職であり、雇用保険上は解雇と同じ扱いを受けます。

(2)従業員が退職後、直ちに失業給付を受ける等のメリットがあります。

(3)雇用保険の助成金を利用している場合には、助成金への影響があります。

 また、就業規則(退職金規定)によっては、懲戒解雇ではなく、退職勧奨にすると、退職金が増える規定になっていることもあります。

(4)雇用保険の手続で、ハローワークから退職勧奨であることの証明を求められる可能性があり、退職合意書の作成が必要となります。

給与締め日と、残給与と、租税公課の控除

(1)未払いの給与は支払わないといけません。5月の給与を6月10日に支払うことになっているとして、6月10日の支払いの給与が未払いであれば、これを支払わないといけません。

(2)解決金の金額は、これに加えた支払いとなります。社長の承諾を得る場合には、この旨を説明したうえで、承諾をもらう必要があります。当然のことですが、合意書に書いておいた方がよいでしょう。

退職合意書の文言

第〇条 解決金

(1)甲は乙に対し、令和3年9月末日締めの給与(支払日は同年10月10日)を通常通り支払う。なお、乙の手取り金額は、租税公課(所得税、住民税、雇用保険、社会保険料等)を控除した、残額となる。

(2)甲は乙に対し、上記とは別に、令和3年10月〇日限り、解決金〇円を支払う。

解決金額

 従業員と解決金額話し合って決めます。

 なお、退職金と書くと、会社に源泉徴収義務が発生します。退職金として支払う場合は、「租税公課(所得税、住民税)を控除した、残額となる。」ことを記載しましょう。

 税金に関しては、損害賠償の支払いは非課税とされています。例えば、10万円の損害が発生し、その後、10万円が支払われても、プラスマイナスゼロであり所得がないと考えるからです。しかし、例えば、残業代等は本来給料であり、実質的に考えれば課税される可能性があります。現実的には、税務署が課税する必要があると指摘するとは考えにくく、実務的には、解決金として、源泉徴収をしないのが普通です。

 退職金として支払う場合には、「甲は乙に対し、令和3年10月〇日限り、退職金〇円を支払う。なお、乙の手取り金額は、租税公課(所得税、住民税)を控除した、残額となる。」と記載します。もしくは、解決金として対応しながら、「甲は乙に対し、令和3年10月〇日限り、解決金〇円を支払う。なお、同解決金について公租公課の負担が発生した場合には、乙の責任で対応する。」という文言を入れることもあります。

 実際には、単に「「甲は乙に対し、令和3年10月〇日限り、解決金〇円を支払う。」とすることが多いです。

支払口座

 現金手渡しで給与を支払っていた場合には、支払先の口座を聞く必要があります。

 銀行振り込みであれば、支払った証拠が簡単に残せます。銀行の振込口座を聞きましょう。

 口座の聞き間違い等を防ぐために、通帳のコピーをもらいます。

退職合意書の文言

第〇条 支払口座

上記の解決金に関し、甲は乙に対し、令和3年10月〇日限り下記口座に送金する方法で支払う。なお、送金手数料は甲の負担とする。

銀行名  支店名

普通   口座名義

口座番号

健康保険証

 健康保険証の回収は、退職日後となります。したがって、健康保険証の回収を条項に入れることがあります。健康保険証の回収が出来なくても退職手続はできます。

 規定する場合もありますが、規定しない場合も多いです。

退職合意書の文言

第〇条

第〇条 返却物の返却

(1)乙は甲を、令和3年10月1日に退職する

(2)令和3年10月5日までに、乙は甲に対し健康保険証を返却する。

口外禁止、精算条項

 口外禁止、精算条項について、下記のような文言を入れます。

退職合意書の文言

第〇条 口外禁止・不利益行為の禁止

甲及び乙は、今後、お互いに双方の名誉を損なうような言動を行わず、本紛争に至る経緯及び本合意の内容について、第三者に口外しないことを相互に約束する。

本件に関し

精算条項について、「本条に関し」という文言を入れることもあります。

お金を支払う会社にとっては不利益なことが多く、できる限り制限のない合意をします。

サンプル

 下記の退職合意書のサンプルを参考にして下さい。

https://yuhigaoka-law.com/wp-content/uploads/2021/09/07c2893a91c122763ddf536650531134.docx

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