判例(パワハラをした加害者だけでなく、パワハラの相談を受けていた上司の安全配慮義務違反を認めた事案)
2023/09/28 更新
パワハラ
(1)パワーハラスメントは、職場で働く者が、職場内における優越的な関係に基づいて、同じ職場で働く他の者に対し身体的・精神的苦痛を与える行為は、業務上必要かつ相当な範囲を超える場合には、パワーハラスメントと呼ばれ不法行為上違法になります。
(2)労務管理上は、パワーハラスメントの定義について拘ることに意味はありません。「社会常識に反した指導は違法となり、会社及び当該指導者が損害賠償義務を負う可能性がある。」「不適切な業務命令は違法となり、会社及び当該指導者が損害賠償義務を負う可能性がある。」と理解すればよいと思います。
本判決
(1)本判決( 令和3年2月10日仙台高等裁判所 判例タイムズ1494号70頁以下 )は、「自殺した社員を注意していたBについては、社会常識を超えてパワハラにあたる(不法行為)にあたる、と判断しました。
(2)自殺した社員が相談していた上司については、自殺した社員からBの指導について相談を受けていたこと、心療内科に通院しうつ状態であると診断されたこと等を考慮すれば、Aに休職を勧めたり、Aの相談に乗ったりするだけでは足らず、Bに対しこれ以上強く注意しないように指導する等の対応をするべき義務があった。」として、安全配慮義務違反を認めました。
令和2年7月1日 仙台地方裁判所 判例タイムズ1481号221頁以下
令和3年2月10日 仙台高等裁判所 判例タイムズ1494号70頁以下
解説
(1)実務上は、どこまでが許された指導であるのか、それともパワハラであるのかは難しい問題です。
近年は、ちょっとしかことでパワハラを訴える社員や、心療内科に通えばうつ症状の診断書を簡単にもらえてしまうのも事実です。
会社さんから、「パワハラだと訴えている社員がいるがどうしたらいいのか。」「うつ病の診断書をもってきた社員さんがいるのだけれどもどうしたらいいのか。」という相談も多いです。
(2)本判決の事案では、相談を受けた上司は、Aに休職を勧めたり、Aの相談に乗ったりはしていました。
実際の事案では、社員さんにうつ症状があると相談されても、社員さんにも生活があり、「社員さんに休んではどうか」とアドバイスができても、「休みなさい。」と命令することは難しいところがあります。
社員さんのプライバシーの問題もあります。上司の立場で、社員さんが通っている診療内科の先生の意見を聞きに行くのは、問題を大きくしかねません。
うつ病患者は、自殺を図る傾向があり、社員が精神疾患が問題になった場合には、上司が病気についてある程度勉強することも必要でしょう。
(3)「自殺した社員を注意していたBについては、社会常識を超えてパワハラにあたる(不法行為)にあたる。」 ( 令和3年2月10日 仙台高等裁判所 判例タイムズ1494号70頁以下 ) とが認定されています。
そうだとすれば、本判決がいうように、Bに対しこれ以上強く注意しないように指導する等の対応をすることはできたのかもしれません。
会社としては、社員同士のトラブルであると把握した上で、仲裁や、配置換え等を検討すべきだったということになるのだと思います。